愛媛大学の尾國新一氏との共同研究においてヒルベルト幾何の粗幾何学的様相について調べた。一般にユークリッド空間内の有界凸領域上には非調和比を用いて距離関数を定めることができる。これをヒルベルト幾何と呼ぶ。この距離空間はその自然な境界の形や滑らかさによって双曲的にもユークリッド的にもなり得る。この観点から、ヒルベルト幾何はある意味で双曲性の一般化であると捉えられる。双曲的な空間やユークリッド空間は粗幾何学的によく調べられていて、特に(粗)幾何学的構造を反映した「良い」境界の存在は重要である。この境界はコロナと呼ばれている。本研究はヒルベルト幾何の自然な境界がいつコロナであるのか調べることを目標としたものである。
主結果として、それは有界凸領域が狭義凸であることと必要かつ十分であることがわかった。加えてヒルベルト幾何学が一様可縮かつ粗有限幾何学を持つことを示した。これらにより主結果の系として自然な境界がコロナである場合にはヒルベルト幾何において粗Novikov予想が正しいことが示される。粗Novikov予想とは一様可縮かつ粗有限幾何学を持つ空間においては、粗KホモロジーとRoe環のK群の間の自然な準同型が単射であろうという予想である。また一方で、二次元のヒルベルト幾何に対して漸近次元が2であることを示し、この場合には上の準同型の同型性を主張する粗Baum-Connes予想が正しいことも示した。
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