研究実績の概要 |
太陽系初期の無機・有機物進化を考える上で、太陽系初期の有機物が存在している環境を知ることは、様々な母天体環境での物質の進化を知ることが重要である。探査機はやぶさがS型小惑星イトカワ表面から採集したレゴリス粒子について、表面観察を行ったところ、粒子表面に、数十nmの多角形状の炭素物質が多数観察された。軟X線分光器を備え付けたFE-SEM用いて、イトカワ粒子表面の高分解能観察・軟X線分光分析を行った。結果、付着物からはC, O, Nの吸収ピークが確認され、有機物の可能性が高いことが分かった。隕石中の不溶性有機物は多くのCがグラファイトに類似した高分子が主要な構成物であることが分かっている。この付着物の軟X線スペクトル形状はグラファイトよりもポリマーのスペクトルに似ていた。結果として、この測定では有機物であることが明らかとなったが、有機物質の起源を同定するには至らなかった。また本年度は、大気のない小惑星表面上で起こる物質進化に注目し、太陽風による宇宙風化を模擬したイオン照射実験を行った。特に異なるイオンフラックスのHeイオン(4keV)ビームをカンラン石試料に照射し、照射試料の評価を行った。観察の結果、総イオン量が等しくても、フラックスが異なる場合、試料損傷も異なることが分かった。今後、試料の評価も容易なカンラン石試料について宇宙風化の発展を正確に議論することができれば、より複雑な構造を持つ水質変成を経た層状ケイ酸塩や有機物の宇宙風化模擬実験を行うことで、太陽風の宇宙風化による炭素質コンドライト母天体表面での有機物進化を議論できると期待される。
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