研究概要 |
ヨコヅナクマムシ(Ramazzottius varieornatus)は極めて高い放射線耐性を示す動物で、ヒトの半致死量の1,000倍に当たる4,000Gyの放射線を照射してもほぼ100%の個体が生存する。通常、高線量の放射線は多様なDNA障害を引き起こすことで、生物に重篤な影響を与える。ヨコヅナクマムシでは、こうした放射線障害からDNAを保護・修復する機構が存在すると考えられるが、その分子的基盤は全く分かっていない。 そこで研究代表者は、この放射線耐性を支える候補因子として、クマムシ固有の新規クロマチンタンパク質S261に着目し、放射線耐性への寄与とその分子的基盤の解明を目的としている。これまでに、培養細胞(ヒト胎児腎由来HEK293, ショウジョウバエ胚由来S2)においてS261が核DNA全体に局在すること、ゲルシフトアッセイ法を用いたin vitroの解析で、S261のリコンビナントタンパク質がDNA結合活性を示すことを見出している。 本年度は、哺乳類培養細胞をもとにS261定常発現株を作出し、DNAの放射線障害に与える影響を調べた。その結果、DNA二重鎖切断の応答箇所を反映するγ-H2AXのFoci数がS261発現株で有意に減少することがわかった。また、放射線照射によって生じるDNA断片量を定量したところ、S261発現株では親株と比較してDNAの断片化が半分程度に抑制されることがわかった。以上の結果から、S261は核DNAに直接結合し放射線障害からDNAを保護している可能性が示唆された。
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