研究課題/領域番号 |
13J01843
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
丸谷 曜子 神戸大学, 大学院農学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 高温ストレス / ステート遷移 / 光化学系 / チラコイド膜 / コムギ |
研究概要 |
本研究課題では、高温条件で誘導されるステート遷移と熱放散がPSII保護に寄与しているかどうかをアラビドプシスを用いて検証すること、及びコムギを材料に生化学的な実験を行い、高等植物におけるステート遷移の分子機構を解明することを目的とした。 課題1)アラピドプシスの変異体(stn7 : STN7キナーゼ欠損変異体、stn8 ; STN8キナーゼ欠損変異体、npa4-1 ; 熱放散欠失変異体)を用いてステート遷移欠失、熱放散欠失の二重変異体(stn7×npa4-1)及び三重変異体(stn7×npa4-1×sin8)を作製するために、それぞれの変異体の変異確認を行った。 課題2)LHCIIのリン酸化がPSIとの結合に与える影響を検証するために、リン酸化LHCII及び非リン酸化LHCIIのPSIとの再構成実験を試みた。しかし、リン酸化LHCIIが微量であるため、再構成実験に使える量を得ることが非常に難しいと判断した。そこで代替案として、明所高温条件におけるリン酸化状態をイムノブロットにより調べたところ、チラコイド膜タンパク質のリン酸化の増加が検出された。リン酸化タンパク質を精製し、MS解析に供したところ、Dl、D2タンパク質、Lhcb1、Lhcb2であると示された。また、明所高温条件によりリン酸化されるLHCI1タンパク質の割合をPhos-tag SDS-PAGEにより調べた。その結果、およそ37.5%のLhcb2が高温処理によりリン酸化されることが示され、ステート遷移の誘導にLhcb2が契機となることが示唆された。また、ステート遷移によるチラコイド膜タンパク質のリン酸化がチラコイド膜の構造に影響を与えることが報告されている。透過型電子顕微鏡により葉緑体を観察したところ、明所高温条件でのチラコイド膜はstack構造がunstackになる、構造変化を起こすことが分かった。 課題4)コムギからPSI巨大複合体を単離するため、ショ糖密度勾配とSMART systemを用いた精製を試み、その結果を論文に投稿したが、査読者に分離が不明瞭であることを指摘された。そこで分離の方法をBN-PAGEに変更し、明所高温条件でステート遷移が誘導されたときにPSI-LHCII超複合体が形成されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アラビドプシスの二重変異体を作製するための変異体を選抜した。また、明所高温条件で誘導されるステート遷移において、主にリン酸化タンパク質に着目して生化学的な情報を集めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
課題1)アラピドプシスの二重変異体及び三重変異体を作製し、ステート遷移と熱放散がPSII保護に寄与しているかどうかを検証する。 課題2)リン酸化LHCIIが微量であるため、再構成実験に使える量を精製することができなかった。代替案としてリン酸化タンパク質を分離するPhos-tag SDS-PAGE等を用いたイムノブロットにより、チラコイド膜タンパク質のリン酸化を詳細に調べている。ステート遷移によるチラコイド膜タンパク質のリン酸化とチラコイド膜構造には密接な関係があることが報告されている。そこで、今年度、リン酸化タンパク質について調べた情報を元に、Lhcb2の挙動にっいてさらに詳細を検証し、リン酸化タンパク質による膜構造の変化と高温耐性メカニズムとの関係性を包括的に議論できる結果を集めたい。 課題4)今年度、ショ糖密度勾配遠心法による新規のPSI超複合体の単離を試みたが、技術的に難しいと判断した。代替案として、現在、BN-PAGEによる単離を試みている。順調な結果が得られつつあるので今後はBN-PAGEを用いて、明所高温条件で形成されるPSI超複合体の詳細を調べる。
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