今年度は、環境の変化により引き起こされるステート遷移の分子機構の解明に取り組んだ。当初の計画では高等植物のステート遷移が藻類と類似していると想定して実験を立案したが、進捗に伴い藻類との差異が明らかとなってきたため、得られた結果に基づき計画を適宜変更して研究を進めた。その結果、陸上で生育する高等植物と水中で生育する藻類のステート遷移の機構の違いを明らかにし、高等植物のステート遷移にはより強い光環境で生育するための効率的な光合成と高温ストレスからの光化学系の回避という生理的意義があると結論して投稿論文を取りまとめた。 課題1) ステート遷移や熱放散を欠失したアラビドプシスの変異体(stn7; STN7キナーゼ欠損変異体、stn8; STN8キナーゼ欠損変異体、npq4-1; 熱放散欠失変異体)では高温耐性が低下することを期待して、明所40℃におけるPSII活性測定を行ったが、野生株との顕著な違いは見られなかった。単独の変異体では、欠失していない方の表現型が補うことにより高温障害を回避する可能性が考えられた。 課題2 及び課題4) BN-PAGEと2次元SDS-PAGEにより同定したPSI-LHCII複合体のリン酸化状態をイムノブロットにより調べたところ、リン酸化されたLhcb1とLhcb2が結合していた。ステート遷移の研究が進んでいる緑藻においてPSI-LHCIIの形成に必須であるCP29やCP26は、コムギのPSI-LHCII複合体からは検出されなかったことから、緑藻類と高等植物ではPSI-LHCII複合体の構成成分及び形成メカニズムが異なることが示唆された。 当初に挙げた課題以外の進展)これまでに報告された光変動誘導性ステート2と本研究で示された高温誘導性ステート2の違いを明らかにするために、光・温度条件の変化がステート2の誘導に与える影響を調べた。その結果、明所25℃ではリニア電子伝達を促進するステート2である一方、明所40℃ではサイクリック電子伝達優勢のステート2であることが分かった。
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