本研究の目的は、MgO(001)基板上に成膜した膜厚20 nmのマグネタイト薄膜における逆位相境界(APB)周辺での局所的な磁性と電気伝導を測定し、APBが磁性や電気伝導特性に与える影響と、その原子構造、磁気特性の関係性を明らかにすることである。本年度は走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて試料表面の原子配列を明らかにし、走査トンネル分光(STS)を用いてAPBの導入により逆位相領域(APD)が異なる電子状態密度分布をとることを明らかにした。 APBを含む試料表面の結晶構造の観察としてマグネタイト薄膜試料表面をSTMによって観察したAPB周辺を詳細に観察することで、マグネタイトの原子配列から3種類存在すると考えられる1/2[100]、1/4[110]、1/4[101]シフト型APBの原子配列を原子分解能で観察することに成功し、各APBの原子配列を明らかにすることに成功した。このSTMによる3種類のAPBの実空間観察結果はこれまでに報告にない結果である。3. STMによりAPBの原子構造を観察するとともに、STSをおこなうことでAPB周辺の表面電子状態密度分布の測定をおこなった。測定の結果、1/4[101]シフト型APBによって隔てられたAPDの内、異なる表面電子状態密度分布を示すAPDが観察されたが、1/2[100]、1/4[110]シフト型APBではこの現象はみられなかった。これらの結果から、1/4[101]シフト型APBがマグネタイト薄膜の電気伝導特性に大きな影響を与えていると考えられる。更に、1/4[101]シフト型APBはその原子配列から反強磁性的な磁気結合の割合を増加させることが予測されており、1/4[101]シフト型APBがマグネタイト薄膜の磁気特性に大きな影響を与える可能性を示唆する結果を得た。
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