研究課題/領域番号 |
13J01879
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 俊太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有限密度系 / 光学ポテンシャル / 中間子崩壊 |
研究実績の概要 |
今年度の研究では、η中間子及びη'中間子の核媒質中での性質の変化についての研究を行った。η'中間子については、η'N channelと結合しうるηN、及びπN channelまで含めてη'N 2体系のT行列の解析、及びη'の核媒質中での光学ポテンシャルを計算した。核媒質中でのη'については、まだη'の核物質への多体吸収の効果が取り込まれていな。今回の計算では2体吸収の効果まで含めた解析を今年度中に完了させる。 また、η中間子についてはアイソスピン非対称度を持つ核物質中でのηπ0混合角、及び3πへの崩壊幅の解析を行いこれらの量がアイソスピン非対称度の効果で増大することを明かにした。崩壊幅については核子数密度によっても明らかな増大を示すことが分かった。この核子数密度による増大の効果は大きく、真空での崩壊幅の値に比べ通常核密度において2から3倍程度増大する結果が得られた。今後はこの核子数密度による増大の理由を明かにするための研究を行う。具体的には線形シグマ模型を用いて解析を行う。この線形シグマ模型による解析によって、核媒質による真空の変化によって、このη→3π崩壊において重要性が指摘されている週状態相互作用の一部が再総和された形で取り込まれることが期待されるとともに、線形シグマも計におけるフレーバー1重項のスカラー中間子はカイラル対称性の自発的破れの秩序変数であるクォーク凝縮の値と関係しており、核媒質中でのカイラル対称性の部分的回復によってη中間子の3π崩壊への部分幅がどのように影響を受けるかを明らかにすることができると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度までの研究で、η'中間子-原子核の束縛状態の存在を現在の模型のもとで検証するために必要なη'-光学ポテンシャルを、主要な効果を与えると思われるηN、πN channelへの遷移を含めた形で計算した。特に虚部は束縛状態の観測可能性の議論のために必要な情報であるが、理論的な解析はほとんど行われていないため、このη'束縛原子核の議論のために重要な量を計算することが出来た。一方で、ここまで議論してきた他の中間子への遷移による効果以外にも、原子核は核子の多体系であることから、η'中間子がその多体効果によってη'NN→NNのような反応によって吸収される場合においても虚部は生成する。 現在の計算ではこの吸収の効果は取り込まれていないため、η'-光学ポテンシャルの虚部の値がこの模型の範囲で信頼できるものかを確かめるために、この効果が定量的にどの程度かを把握する必要がある。 また、η中間子の核媒質中での崩壊幅についてはこれまでの計算では非線形表現の南部-ゴールドストン中間子場を用いて計算を行い崩壊幅の核媒質中での変化を計算した。η→3π崩壊幅の核媒質中での変化の機構を明かにするためには、カイラル対称性の自発的破れの秩序変数と関係し、さらにこの崩壊反応において重要であると指摘されている終状態相互作用の一部を取り込んだスカラー中間子の自由度を取り込むことが必要であると考えた。現在解析は途中であるが、計算自体は概ね完了している。
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今後の研究の推進方策 |
η'中間子の核媒質中での性質については、まず現在取り込まれておらず大きな寄与を与えるかもしれない2体吸収の効果を取り込むことが第一目標である。 この計算によって光学ポテンシャルの虚部を決定し、今回用いている模型のもとでη'中間子と原子核の束縛状態の存在の可否、及び存在する場合はその束縛エネルギー、及び幅を求める。 η中間子の3π崩壊については、スカラー中間子の自由度を取り込んだ計算を完了し、カイラル対称性の部分的回復によるスカラー中間子質量の変化によって引き起こされるη→3π崩壊幅の核媒質中での変化がどの程度であるかを明らかにすることが出来る。 また、新たな研究の方向性としてアイソスピン対称性を露に破る源として、外部電磁場があげられる。近年強い外部電磁場は高エネルギー重イオン衝突などで生成していると期待されており、そのハドロンの性質に与える影響が盛んに議論されている。 今考えているη→3π崩壊幅の核媒質中での変化の一つの要因は、外場によるアイソスピン対称性の破れであり外部電磁場によっても崩壊幅の変化が起きると期待される。また光子はスピン1を持つため、この結合によってη中間子とω中間子の間に混合が起きる。 今年度は、強い外部電磁場の下でこれらの効果を取り込んで、この崩壊幅がどのように、どの程度変化するかについて解析を行い、さらにその崩壊幅の変化が実験的に観測され得る量に対してどのように影響を与えるかについても議論を行う。
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