今年度は、核媒質中におけるカイラル対称性の回復によって特異な性質を示すと期待されているη'中間子の核媒質中での性質を議論する際に重要となるη'と核子の間の結合についてこれまでの計算をさらに拡張し、有限の運動量、及びフレーバーSU(3)対称性のあらわな破れの効果を取り込んだ計算を行い、さらにη'と核子の2体系について、ηN、πN channelとの結合の効果を取り込んだ計算を行った。 この計算結果については現在慈道大介氏(首都大学東京)と議論を行っている。 また、η'中間子と核子の束縛状態の存在を調べるため、η'中間子の重陽子標的での光生成反応に注目し、慈道大介氏、及び関原隆泰氏(JAEA)と共同で理論的考察を行い、重陽子標的での実験によってη'中間子-核子の束縛状態の存在を検証できる可能性があることを示した。 また、今年度は核媒質中でのη中間子の3π崩壊についても研究を行った。η中間子はフレーバーSU(3)対称性の破れによりη'中間子と混合するが、この混合性は核媒質中において変化する可能性があるため、η'中間子の核媒質中での性質の議論の際には、η中間子の変化についても考察が必要であると考えられる。 今回は線形シグマ模型を用いて解析を行い、その結果、η中間子の3πへの崩壊幅は核媒質中でのカイラル対称性の部分的回復、特にσ中間子のsoft化の効果によって増大することが分かった。このことから、このη→3π崩壊幅が核媒質中におけるカイラル対称性の回復の指標となり得るということが分かった。この核媒質中におけるη→3πの解析の結果についてはProgress of Theoretical and Experimental Physicsに投稿し、掲載決定となっている。
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