研究課題/領域番号 |
13J01889
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
正井 宏 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子内スリッピング / 固体燐光発光 / 分子エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本年度は、多様な被覆型機能性分子ワイヤの合成を可能とするため、汎用性の高い被覆共役分子合成手法の開発に成功した。分子内スリッピングとして分類される本手法は、ロタキサン型被覆共役分子を構築する新しい手法として位置づけられる。様々な反応条件・分子骨格を検討した結果、メチル化シクロデキストリンを側鎖として連結した種々の共役系をメタノール水溶液中で加熱することで、対応する被覆型共役分子を高収率で得る手法を確立した。 続いて、主鎖に白金アセチリド結合を有する分子ワイヤの燐光発光特性を比較したところ、主鎖を三次元的に覆う被覆は、主鎖の熱運動に伴う三重項励起状態の失活を抑制し、燐光量子収率を向上させる効果が明らかとなった。この効果は、被覆による分子間相互作用の抑制効果と協同的に作用することで、固体中において燐光発光を増強させることが明らかとなった。 さらに、分子エレクトロニクスにおける新しい試みとして、被覆型の共役分子を無機固体材料である酸化インジウムスズ(ITO)表面上に導入することを目指した。固体材料表面に機能性共役分子を直立させることは、高度に制御された電子・エネルギー輸送特性を固体材料に付与することから、ボトムアップ的な機能性素子構築における有効な手段となることが期待される。しかし機能性材料として有用な拡張された共役分子は、強い分子間相互作用が、基板上で無秩序な凝集を起こすため、これまで導入が困難とされてきた。そこで、共役分子の高密度な基板修飾手法として、環状分子で三次元的に被覆した新規接着分子を設計し、その導入を行った。接着点として亜リン酸部位を有する被覆共役分子を合成し、ITO基板上への導入を試みたところ、基板修飾時における分子の凝集や、基板上で高密度に存在する分子間の相互作用を十分に抑制しつつ、高密度に分子を導入されたことが、原子間力顕微鏡測定によって示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来、環状分子を用いたロタキサン型被覆型共役分子の合成には、共役系が環状分子に貫通する特殊な条件下において、共有結合形成反応を行い、貫通構造を固定化することが必須であり、多種多様な被覆共役分子の合成を妨げていた。対して、本研究実績の一つである分子内スリッピングにおいては、共有結合形成反応を経ることなく、極性溶媒中における加熱のみによって貫通構造を構築し、得られた構造体は速度論的に安定に単離可能なユニットの合成に成功している。 また、燐光発光型の分子ワイヤにおいては、環状分子が固体中における分子間相互作用を抑制するという典型的な効果だけでなく、室温における主鎖の熱運動の抑制という新しい効果を見出した。これは室温分子材料としての燐光発光錯体における新しい設計指針を与えるものである。 さらに、当初の研究課題には含まれていなかったITO基板への分子修飾は、共役分子を独立させたまま固体材料上に導入することに成功しており、無機ー有機ハイブリッド型のナノデバイス材料への発展が期待される。 以上のように、当初想定していなかったこれらの結果は、申請者の系統的な研究によって明らかとなったものであり、当初の研究計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は燐光発光に対する環状被覆効果をより普遍的な現象であることを明らかとするため、主鎖骨格の修飾による発光特性の多様化を目指す。さらに、分子内スリッピングを用いた分子変換を利用して、これまで合成が困難であった種々の被覆型機能性共役分子を合成する。得られた機能性分子を種々の無機固体材料へと導入し、ナノデバイス作成におけるプラットフォームを構築する。得られた基板表面の解析を詳細に行うとともに、さらに機能化された分子を導入し、基板表面の機能化を試みる予定である。
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