本研究の目的は、アデール的因子の正値性の研究と張の基本不等式の巨大なアデール的因子への一般化を与えることです。アデール的因子に付随する数論的体積関数の微分可能性は、ユアンの数論的シウ不等式と同値であり、代数多様体上の高さの小さい有理点の分布に関する同程度分布定理を導きます。 本年度は昨年度に引き続き前述の研究目的達成に向けて、当初の証明方針を修正した新しい方針を提示し、解決に向けて結果を積み上げました。特にアデール的因子と基底条件の組の概念の導入により、数論的オコンコフ凸体の詳細な形状の研究を行うアイディアを提示しました。 前述の方針を進めるため、まず、アデール的直線束の部分多様体に沿った数論的制限体積の概念を提示し、通常の制限体積と同様の良い性質を持つことを示しました。 次に、アデール的因子と基底条件の組とその正値性の概念を導入する論文を発表しました。ここで基底条件とは、代数多様体の有理関数体上の正規化された離散付値の形式的有限和のことであり、アデール的因子と基底条件の組に対して数論的体積を定義することができます。このような組の数論的体積関数に対して、基底条件がない場合と同様の微分可能性が示されます。 私は本年度、アメリカ合衆国ブラウン大学で開催されたジョセフ・シルバーマン氏の還暦記念研究集会に参加し、ポスター発表と、アラケロフ幾何や数論的力学系、有理点の理論に関する最新結果の情報収集を行いました。 また、京都大学・関西セミナーハウスで開催されたアラケロフ・インターシティセミナーに参加し、口頭発表と、アラケロフ幾何や非アルキメデス幾何の最新結果に関して、情報収集を行いました。さらに、玉原国際セミナーハウスで開催された玉原代数幾何セミナーに参加し、アデール的因子や組に付随する数論的体積関数の微分可能性について報告しました。
|