岩石中で起こる鉱物の溶解・沈殿、溶存元素の吸・脱着といった種々の反応を定量的に扱う上で、鉱物-水反応面積の理解は不可欠である。地下水面よりも上方の岩石では、断続的な乾燥・降雨により間隙中の水量(水飽和率)が大きく変動する。そこで前年度は、様々な水飽和率に調整した砂岩へ水を流し溶解量を調べ(透水溶解実験)、水飽和率と反応面積の関係を評価した。その結果、空気が存在する間隙の表面は水膜で覆われており、水膜を介して反応が進行することが明らかとなった。さらに、水膜中の反応と物質移動を扱うモデルを構築し、様々な鉱物組成、粒径、間隙サイズをもつ岩石について、反応面積が水飽和率の影響を受けるかを予測する判断基準を得た。この判断基準を用いる上で、水膜の厚さが重要なパラメータであることが示された。そこで本年度は、間隙中の水膜厚さを予測するモデルを構築し、水膜厚さがどのような因子によって決まるのかを調べた。 一般に鉱物/水界面や空気/水界面では、電気二重層が発達する。鉱物表面を覆う水膜の場合、水膜が薄いために鉱物/水界面と空気/水界面の電気二重層どうしが重なり合い、圧縮された状態となる。その結果、水膜を厚くし、電気二重層の圧縮を和らげようとする力(浸透圧)が働く。この浸透圧によって水膜は鉱物表面上に保持される。界面のイオン吸着・分布を扱うTriple-layerモデルを元に、鉱物/水と空気/水界面の二重層の重なりを加味できるように改良し、水膜の厚さを扱うモデルを構築した。その結果、岩石間隙中の水膜厚さは、間隙サイズ、鉱物の種類、間隙水の組成(pH、イオン濃度)に依存することが分かった。
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