研究課題
残留性有機汚染化学物質である有機フッ素化合物(PFAAs)は、環境中および生体内で分解を受けずに蓄積されることから、PFAAsの胎児期曝露による児の健康影響が懸念されている。また近年では、炭素鎖の長いPFNA、PFDAのヒト血中濃度の経年的な上昇が示されているが、日本における報告はわずかである。そこで本研究では、超高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析装置(UPLC-MS/MS)を用いた一斉分析により、妊婦の血漿中PFAAs 11物質濃度を測定し、曝露実態を明らかにするとともに、濃度の経年変化を検討することを目的とした。対象者は、2003年~2011年に前向きコホート研究「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ」に登録した妊婦20,737名から2年ごとに30名をランダム抽出した150名である。2011年の血漿中濃度は、PFOS 3.86ng/mL、PFOA 1.35ng/mL、PFNA 1.26ng/mL、PFDA 0.66ng/mLだった。濃度の経年変化を評価するために年齢と出産経歴で調整した重回帰分析を実施し、1年当たりの変化率を算出した結果、PFOS、PFOA濃度はそれぞれ8.4%/y、3.1%/y有意に減少した一方で、PFNA、PFDA濃度はそれぞれ4.7%/y、2.4%/y有意に増加した。本研究における妊婦の血中PFOS、PFOA濃度は、諸外国の妊婦と比較して低い濃度であった。PFUnDA、PFDoDA、PFTrDAは諸外国よりも比較的高い濃度であったが、経年変化は認めなかった。濃度の変化について、近年のPFOSおよびPFOAの規制により、血漿中濃度が経年的に減少したと考えられる。一方で、PFOAよりも炭素鎖が長いPFNA、PFDAは、残留性が高く半減期が長いことから生体内に蓄積し、濃度が増加したと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
UPLA-MS/MSを用いた血漿中PFAAs濃度の測定はほぼ終了し、北海道の妊婦における曝露実態およびPFAAs濃度の経年変化については既に論文化、英文学術雑誌に掲載されたことから、本研究課題はおおむね順調に遂行しているものと考える。
今後は、PFAAsの胎児期曝露が乳幼児期のアレルギー症状発症に及ぼす影響を検討し、特に経年的な濃度の増加を認めた長鎖の物質に着目する。具体的には、独立変数を母体血中PFAAs 11物質の各濃度、従属変数を児のアレルギー症状発症(湿疹・喘鳴)とし、年齢、性別、母の教育歴、両親のアレルギー疾患既往歴、母乳栄養期間、受動喫煙、集団保育歴などの交絡因子で調整後、多重ロジスティック回帰分析を行いオッズ比と95%信頼区間を算出する。また、PFAAs曝露の影響を疫学的に検討した先行研究において、性差が認められていることから、本研究でも性別による影響の違いを検討する。
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