研究実績の概要 |
本研究では,以下の2つの目的のもと,児童自立支援施設での参与観察,および職員へのインタビュー調査を実施した.第1に,施設養護という「非家族」による子育てをみることで,子育ての社会化の全体像に接近することである.第2に,1点目の検討を踏まえた上で,子育ての社会化をめぐるこれまでの議論が,実践レベル,学術レベルともに「家族」,あるいは「家庭」を中心に据えた問題構制で展開してきた背景を考察することである.つまり,施設養護という「非家族」での子育てを対象とすることで,子育てをめぐる社会と家族の布置関係や,それについての規範構造を明らかにすることを目的とした. 調査からは,施設養護の「集団性」が支援において積極的な意味を持っていることと,退所後の子どもの生活にさまざまな困難があることが確認された.その知見から,第1に,ケアの「集団性」,「個別性」,「家庭性」の論理的布置関係が再構成された.第2に,施設養護でのケアを「家族」でのそれと比較することを通じ,社会で子どもを育てる上でのニーズが同定された.第3に,(1)子どもの依存は愛情あふれる関係のなかで引き受けられるべきであり,(2)そうした関係はただ1つの私的空間のなかで,(3)「親」によって与えられるべきである,とする規範の存在が指摘された. 以上のような本研究は,施設養護という一見特殊な対象を通じて、子育てをめぐる日本社会の構造的問題に接近するものであった.結論として,本研究は,「どこで育つのであれ,その子どもが生き続けるためのニーズに対して支援を与えられる社会的条件を作り出す」という視点に立つこと,つまり,「家族」の存在を前提とした「子育ての社会化」を超えて,〈子育ての脱家族化〉を推進する条件を議論していくことの重要性を示唆するものといえる.
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