研究課題/領域番号 |
13J02001
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤井 麻樹子 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 質量分析 / 大気圧 / 化学イオン化 / 高速重イオン |
研究実績の概要 |
本研究課題は、大気圧下で高感度・高分解能での界面分析を実現するための、スパッタ粒子大気圧化学イオン化質量分析法の開発を目的とするものである。本手法の確立により、電池材料の電極・電解液間の固液界面の評価、触媒機能発現メカニズムの解明、含水状態での生物試料の分析等の実現が見込まれる。 2年目となる平成26年度は、大気圧下で試料への一次イオンビーム入射を実現するための装置改良、低真空下での二次イオン高効率取り込みのための諸条件の最適化を行った。結果、大気圧下で、これまでの真空度とほぼ遜色ない感度での測定を実現した。併せて、電池材料等の空気に触れることで性質の変わってしまう材料を分析するための、真空中あるいは不活性ガス中での試料作製・運搬・導入機構の実装を行った。具体的には、真空あるいは不活性ガス雰囲気中で試料作製を行うためのグローブボックスから、大気に触れることなく試料を装置内に導入できるダブルロードロックと呼ばれるシステムであり、現存の装置に合わせて設計および試作評価を行った。また、リチウムイオン電池を想定したモデル試料の作製および基礎評価を行い、翌年度の実試料測定への応用を踏まえた試料作製基盤を構築した。同様に、含水生物試料測定のための基礎検討として、生体に含まれるいくつかの成分を混合したモデル試料を作製し、マトリクス効果や夾雑物による検出限界の低下など、複雑な構造・組成を有する生体試料の分析において懸念される事項の洗い出しを行った。その結果、高精度な生体試料分析、特に質量イメージの取得に際しては、現在の二次イオン収率に比べおよそ100倍程度の増感が必要となることが明らかになった。 さらに、有査読論文4報、国際会議発表5件、国内学会等発表4件と、積極的に研究成果の対外発表を行い、また、関連研究の動向把握に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における最大の障壁であった大気圧分析を今年度実現した。高速重イオンビームの発生部は高真空であり、試料照射部において大気圧とし、かつ十分な収束特性を維持するためには、ビームラインへの差動排気機構や光学レンズの導入が必要となることに加え、大気圧下へのイオンビーム引き出し部と試料表面の距離を可能な限り近くすることが必要であった。さらに、大気圧の試料室部から、高真空の二次イオン検出部へと、感度の低下を最低限に抑えて二次イオン輸送を行うための、各部の印加電圧や詳細な配置等についてシミュレーション計算を用いて最適化することにより、従来の真空下での分析と遜色ない感度での測定を実現した。しかしながら、大気圧分析に固有の問題として、試料室内の残留ガス等がイオン化することによる特異的なバックグランドの増大が確認された。これは来年度以降解決に取り組むべき課題である。 また、本研究課題で目標としている、サブミクロンオーダーの空間分解能での質量イメージ取得に向けた評価を行った結果、現在の二次イオン収率に比べ、およそ100倍程度の増感が必要となることが明らかとなった。この課題に対する解決策の候補として、前処理として試料にアルカリ金属等を添加する“ケミカルアシスト”という手法を提案した。添加剤の種類や添加法、添加量を変えた基礎検討の結果、二次イオン収率の数~約10倍の向上が確認された。一方で、得られる質量スペクトルのピークパターンの変化が見られたため、そのイオン化の機構やイオン状態での安定性について次年度以降に検討を行う予定である。更に、最終年度となる次年度に向けて、中性粒子のイオン化機構に関する基礎検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる平成27年度は、大気圧下での中性粒子のイオン化機構を確立することと、応用例としての実試料分析に取り組んでいく。 スパッタ中性粒子のイオン化については前年度までに基礎検討を進めてきたところであるが、実際に装置に実装した場合に想定される課題として、電荷をもたない中性粒子を如何に効率的にイオン化領域まで輸送するか、ということが挙げられる。この課題を解決するため、前年度よりガス流のシミュレーション環境を構築してきた。これを活用し、試料室からイオン化領域までのガスの流れを最適化することにより、効率的に中性粒子を輸送し、高感度な測定を実現する。 実試料測定については、以下に挙げる基礎・応用の両面から重要な3つの分野の試料を測定する。まず、大気圧下における触媒機能の評価を行う。触媒反応は圧力環境に依存するため、一般の真空環境中での分析手法による触媒機能の評価は困難である。そこで、大気圧環境中での発現機能の圧力依存性等に関する評価を行い、触媒機能発現メカニズムの解明を目指す。次に、電極/電解液界面の化学反応の追跡を目指す。電子機器等に広く用いられるリチウムイオン電池は正極材料として希少金属であるコバルトを用いるものが一般的であり、より安価な代替材料が模索されている。本研究で開発する装置を用いて、この電極/電解液界面の反応をin situかつリアルタイムで追跡することで、電極材料開発を加速する新たな知見の取得が期待される。最後に、生きた状態の生物試料分析である。生物試料の多くは含水物であるため、高真空環境での測定が困難であるが、本手法を用いることにより大気圧環境で測定できる点が画期的である。更に、高空間分解能でのイメージングにより、医学・薬学分野等への幅広い応用が期待できる。
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