我々はCo3+のスピン状態が温度変化するLaCoO3のCoを一部Rhに置換し、その磁性や構造物性の変化から本系におけるスピン状態の変化について議論を行ってきた。これまでの議論は本系ではCo3+のスピン状態として高スピン状態と低スピン状態の二種類が存在することを示唆する。さらに、磁化率測定の結果からLaCo0.8Rh0.2O3において転移温度15 Kの強磁性短距離秩序が現れることが示唆された。今年度はまずこれまでの結果を博士論文としてまとめた。学位所得後は東京大学物性研究所益田研究室で中性子散乱実験による遷移金属酸化物の磁性の研究を行った。 LaCo0.8Rh0.2O3の励起スペクトルから強磁性秩序を議論するため、J-PARC、HRC分光器で粉末中性子非弾性散乱実験を行った。今回の実験では転移温度以下においてスピン波スペクトルを観測することはできなかった。また、Q = (000) 近傍の散乱強度が50 K以下において温度減少とともに増大することがわかった。 LaCo0.8Rh0.2O3に対する偏極中性子散乱実験について、申請者が中心となって実験課題の申請を行った。本年度中のマシンタイムは獲得できなかったが、来年度のドイツ、MLZのDNS分光器での実験を認められた。 三角格子反強磁性体Ba3NiTa2O9とBa2NiTeO6の粉末中性子散乱実験を行い、転移温度以下で磁気反射を観測した。解析の結果、Ba3NiTa2O9とBa2NiTeO6はそれぞれ120度構造とコリニア反強磁性磁気秩序をとることが分かった。Ba2NiTeO6のコリニアな磁気秩序の起源を議論するため、三次近接相互作用までを考慮したハイゼンベルグハミルトニアンを用いてBa2NiTeO6の古典的基底状態を計算し、磁気相図を作成した。そして、実験的に得られたコリニアな磁気秩序を基底状態にもつ相が相図に現れることを見出した。
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