針葉樹の形成する圧縮あて材は、正常材と異なる特徴を持つ。私たちは、特に需要な特徴である二次壁中層外縁部でのリグニン増加には、ラッカーゼが関わっている、と報告した。ラッカーゼは、リグニン堆積過程の最終段階(モノリグノールの酸化重合)を担う酵素である。本研究では、ラッカーゼについてより詳しく調べた。 ヒノキの圧縮あて材と正常材の分化中木部から抽出したタンパク質をNative-PAGEによって分離し、ゲル内でラッカーゼ活性を検出した。圧縮あて材と正常材では異なる位置のタンパク質がラッカーゼの活性を示した。このことから、圧縮あて材では異なるラッカーゼが働いていると考えられる。 ヒノキ圧縮あて材特異的に発現するラッカーゼ(遺伝子の名前はCoLac1)の、分化中木部における局在を免疫標識法によって調べた。すると、このラッカーゼは二次壁の肥厚する分化段階で発現し、二次壁に分布することが分かった。特に、二次壁の中層外縁部では多く分布した。この領域では、ラッカーゼが多く分布することによってリグニンが多く堆積すると考えられる。 ヒノキ圧縮あて材分化中木部のラッカーゼ‘活性’の分布を、分化中木部切片上で活性染色を施すことによって調べた。さらに、活性分布とリグニンの堆積との対応を調べた。二次壁中層が肥厚するときには、その外縁部で活性が高かった。これは上の免疫標識による結果に合致する。また、中間層や二次壁外層、中層などいずれの壁層でも、ラッカーゼの活性が現れた後にリグニンが堆積し、リグニン堆積の完了に合わせてその活性を失った。各壁層に分布したラッカーゼ活性によってリグニンが堆積し、ラッカーゼはリグニン堆積に働くことによってその活性を失ったと考えられる。 得られた成果は、圧縮あて材のリグニン堆積にはラッカーゼが働いている、というアイディアを強く支持する。
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