研究課題
本研究は、励起子絶縁体状態(励起子相)の理論を構築することを目的にしている。今年度はスピン一重項・三重項励起子相の安定性の研究と励起子絶縁体の候補物質であるTa2NiSe5の理論的研究を実施した。また、励起子相の研究だけでなく、強相関模型に対する変分クラスター近似(VCA)の応用にも力を注いだ。詳細は以下の(1)-(3)に示す。(1)スピン一重項・三重項励起子相の安定性を調べるため、VCAを用いてフント結合と電子格子相互作用の効果を考慮した二軌道ハバード模型の解析を行った。その結果、フント結合がスピン三重項励起子状態(スピン密度波状態)を電子-格子相互作用がスピン一重項励起子状態(電荷密度波状態)を安定化させることを示した。(2)Ta2NiSe5における励起子絶縁体の可能性を議論するために、励起子絶縁体を記述する模型である拡張Falicov-Kimball模型に対し有限温度VCAを適用し、一粒子スペクトルの温度依存性を調べた。その結果、角度分解光電子分光実験のスペクトルと理論のスペクトルがとてもよい一致を示し、Ta2NiSe5においては励起子絶縁体が基底状態として実現している可能性が高いことを示した。(3)汎用性の高い数値計算プログラムの構築のため、今年度はDirac電子系であるHoneycomb格子とπ-flux格子上のHubbard模型における金属絶縁体転移をVCAと動的クラスター不純物近似を用いて研究した。Dirac半金属相と反強磁性絶縁体相の中間相としてスピン液体が示唆されていたが、熱浴の効果と参照クラスターの形状依存性を詳細に議論した結果、中間相としてスピン液体が実現しないことを示した。また、Dirac電子系に限らず、フラストレート系、冷却原子系などの多様な強相関模型にVCAを応用した研究も実施した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は励起子相の基礎的な物理を理解するためのスピン一重項・三重項励起子相の安定性の研究と励起子絶縁体の候補物質であるTa2NiSe5の理論的研究を進めた。また、強相関模型に対する変分クラスター近似の応用にも力を注いだ。励起子相の研究発展だけでなく、多様な強相関模型の研究も実施することができ、多くの研究成果が得られたために研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
今後も励起子相の基礎理論の構築を進めていく予定である。今年度は模型を用いた数値計算を中心に励起子相の安定性の議論を行ってきたが、今後はより現実の物質に即し、励起子相の外場に対する応答などを解析的に研究するつもりである。今後も引き続き実験との提携も行い、励起子相のより深い理解に努める。今年度に実施できなかった励起子相と超伝導状態の関連性についても研究を進める予定である。また、引き続き洗練された数値計算コードの作成に努め、VCAを多様な強相関模型に適用し、多くの現象解明に努める予定である。
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