研究課題/領域番号 |
13J02086
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
笠井 今日子 広島大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | たたら製鉄 / 近世史 / 日本史学 / 産業史 / 石見銀山領 |
研究概要 |
本年度は、鑢製鉄業を総体的に把握し、その過程を通じて近世社会の解明にアプローチすることを目的として研究を進めた結果、以下のような実績をあげることができた。 (1)研究の基礎作業としての、史料の調査・収集 以前から行っていた、中村家文書(隔根県江津市桜江町)の調査・撮影を継続し、研究基盤の拡充を図った。また、加計隅屋文書(広島大学図書館所蔵)の調査・撮影を行い、新たな研究素材を充足した。特に、加計隅屋文書は、不足していた大坂鉄座政策期の史料を含んでおり、中村家文書を補填する史料として有効と言える。 (2)史料の分析による研究成果の発表 まず、中村家文書を分析することによって、近世中期における石見銀山領の鉄山政策の変遷を明らかにし、その背景にあった鐘製鉄業の実態について考察した。その成果は、中国四国歴史学地理学協会2013年度大会において報告した上で論文化し、『史学研究』第282号の誌面上で発表した。 次に、中村家文書および加計隅屋文書の分析により、大坂鉄座政策を契機とする既存鐘師衰微の状況と、その打開を志向した鑓稼行地域住民や関連業者の対応を解明した。研究成果は、2013年度九州史学研究会大会において報告した。 これらの業績により、一八世紀前半から一九世紀初頭にかけての、石見銀山領における鑢製鉄業の展開を明らかにすることができ、研究の目的としていた、「地域規模で鑓経営を捉え直す」という点で研究の進展がみられた。また、鑢師衰微の背景として大坂鉄問屋の動向を分析することにより、産鉄の流通構造の解明を進めることができた。 本年度の研究実績は、従来概念的にしか把握されてこなかった石見銀山領における鑢製鉄業の実態を、一次史粧をもとに、歴史的展開に留意しながら解明した点で重要だと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
史料の調査・収集について、中村家文書の調査継続に主眼をおいたため、新史料の調査・収果に関しては、当初予定していた進度に達していない。ただし、従来の史料群に加え、加計隅屋文書などの調査・撮影をおこなうことで、研究素材の拡充に努めた。また、中村家文書および加計隅屋文書の分析をもとに、二度の研究報告と一本の論文を発表したことから、分析作業はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在不足している史料として、近世後期における石見銀山領の鑢製鉄業に関するもの、石見銀山領以外の鑢製鉄業に関するもの、鑢製鉄業に関連する諸産業(廻漕業・加工業など)に関するものなどがあげられる。今後は、中村家文書の調査と新規史料の開拓を並行しておこない、研究基盤の更なる拡充を進めていく。 研究課題としていた、鑢製鉄業の産業史的考察および消費動向の解明に関しては、未だ有効な史料を見付けることができていない状況のため、研究素材が豊冨な、石見銀山領における近世後期以降の鑢製鉄業の展開、および他地域における鑢製鉄業の解明を、まずは進めていく。
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