ニワトリ卵管粘膜へのサルモネラ菌や伝染性気管支炎ウイルス等の細胞内感染細菌やウイルスによる感染は、産卵機能低下や個体の衰弱死を引き起こす。これらの感染への抵抗性には、感染細胞の排除を担うナチュラルキラー細胞(NK)細胞をはじめとした細胞障害性細胞の機能が密接に関わると考えられる。本研究は、ニワトリ卵管の細胞傷害性細胞の1種であるナチュラルキラー細胞(NK)を介する免疫機構を解明することを目的とした。 そのために、①抗原刺激に応答してNK様細胞を卵管へ誘導して活性化する因子の追求と、これに関連して②卵管への鶏伝染性気管支炎(IB)ウイルス感染により引き起こされる卵殻形成異常に関与する因子を追求した。 その結果、卵管ではIBウイルスに対して細胞傷害性細胞の動員による免疫応答が働き、この応答は産卵期に比べて休産期には低下すること、そしてこれにはエストロゲン量の減少が1つの要因として関わると推定された。このことは、休産期の免疫力の低下には性ホルモンの分泌の低下が関与していることを示唆している。また、子宮部粘膜組織の培養実験の結果から、炎症性サイトカイン刺激は子宮部粘膜の適正なカルシウム分泌を障害して、卵殻形成に影響を与える可能性があると推定された。培養細胞を用いた追加試験により、特にIL-6の長時間暴露は子宮部の粘膜細胞のCa2+の輸送を阻害する可能性が示された。このことから、生体におけるIBウイルス感染時の卵殻形成阻害反応の一因として炎症性サイトカインの影響が推察された。これらの知見は、将来的に休産鶏の飼育管理法の開発や、免疫関連因子や卵殻形成関連因子を指標とした抗病原性や卵生産性の高い鶏の育種選抜、産卵異常を指標とした感染の早期発見技術の向上など、多方面の技術開発に寄与すると期待される。
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