研究概要 |
本年度は, うつ病の再発をもたらす脆弱性に関連した神経基盤の検討を目的としていた。そのため, 脆弱性のバイオマーカーとなりうる「安静時と感情喚起時における脳活動の計測」を具体的な検討課題として, 以下のように研究を遂行した。 まず, 大うつ病再発の脆弱性を検討可能な認知課題を広く概観し, 脆弱性を反映する脳活動を十分に計測可能であると考えられる認知課題を開発した。次に, 施設管理者や医療従事者との話し合いを重ねた上で, 実験参加者のリクルート体制の確立や, 実験環境の整備, および実験プロトコルの策定を行った。これらの取り組みを通じて, 今後の研究実施に必要不可欠な安全性と効率性の高い実験実施体制が確立することができたといえる。 次に, 開発された認知課題の基礎検討を重ね, 適宜修正を行った上で, 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって計測された脳活動の実験的検討を開始した。具体的には, 実験参加者における安静時の脳活動と, 抑うつ気分喚起時の脳活動を検討した研究を実施した(データ収集中)。その結果, 安静時に関わる脳活動や, 抑うつ気分に関わる神経基盤の基礎的知見を得ることができた。また, 抑うつの脆弱性を有すると考えられる虐待経験者において, 悲しい記憶を想起した際には扁桃体の強い反応性が見られる事が明らかになった(海外学術雑誌に投稿中)。 これらの研究成果は, 次年度以降の円滑な研究遂行につながることに加えて, 脆弱性の背景にある神経基盤に焦点を当てた介入方法を検討する上で, 重要な基礎的知見を提起する可能性がある。そのため, うつ病予防を目的とした研究領域への応用につながるといった高い臨床的意義を有すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに, 実験課題の作成に加えて, 実験参加者のリクルート体制や実験環境の整備, および実験プロトコルの策定が終了し, 円滑に実験が行われている。そのため, おおむね当初の予定通りに研究が遂行できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究目的である「脆弱性の神経基盤に対する認知神経科学的観点に基づく介入方法の開発」を遂行するため, より専門的なプログラミング知識と実験手技の習熟が重要であることが考えられた。そこで, 脆弱性の神経基盤に関する理解を深め, 本課題をさらに発展的に遂行する事を目的として, 来年度は現在の所属機関に加えて, うつ病のニューロイメージングや計算論的精神医学に特化した他機関において研究活動を行う事を予定している。
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