本年度は,うつ病の再発を予防する介入方法の検討を予定していたが,申請者の所属先変更に伴う帰国,および特別研究員の中途辞退により,これまでの研究成果を集約し成果報告を行うことを主な目的とした。 まず,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって計測された幼若期ストレス経験者における脳活動における解析結果を再整理した。本研究では,実験参加者における安静時の脳活動と,抑うつ気分喚起時の脳活動を検討した研究を実施した。解析の結果,安静時に関わる脳活動や,抑うつ気分に関わる神経基盤の基礎的知見を得ることができた。また,幼若期ストレス経験者において,悲しい記憶を想起した際には扁桃体の強い反応性が見られる事が明らかになった。こうした扁桃体活動は,抑うつ症状やストレッサーの影響の緩和につながっていたことから,これらはストレスに対するレジリエンスの神経基盤である可能性が示唆された(海外学術雑誌に投稿中)。 次に,うつ病から寛解した患者のfMRIデータについて主要な解析を終了させた。本研究では,うつ病寛解患者の脆弱性を明らかにする認知課題を実施し,課題遂行中の脳活動をfMRIを用いて計測を行った。解析の結果,うつ病の再発数と,うつ病寛解後の脳活動の間には関連が認められ,特に情動系と遂行機能系といった脳活動クラスターに基づく特異的な患者群のサブタイプが示された(海外学術雑誌への投稿準備中)。 以上の研究成果は,うつ病の再発をもたらす脆弱性の神経基盤の解明のための基礎的知見の一助となると考えられる。そのため,うつ病の再発予防を目的とした認知神経科学的介入方法の開発につながるといった,高い臨床的意義を有すると考えられる。
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