研究課題/領域番号 |
13J02156
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
酒池 耕平 広島大学, 先端物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | フレキシブルエレクトロニクス / 電界効果トランジスタ / 単結晶シリコン / メニスカス力 |
研究概要 |
申請者は、フレキシブル基板上に耐熱温度以下でSi膜を形成する世界に類を見ない画期的な転写技術を提案し、これまで困難とされてきたフレキシブル基板上での高性能Siトランジスタ作製技術の確立を成し遂げた。 近年、電子ペーパーに代表されるようなフレキシブルディスプレイが実現されている背景には、酸化物や有機材料をチャネル層に用いた薄膜トランジスタ(TFT)作製技術の飛躍的な進歩がある。酸化物TFTや有機TFTは、低温かつ大気圧下でTFTの作成が可能であり、耐熱温度が低いフレキシブル基板上でのTFT作成においてこれら技術は最も重要な技術の一つとして位置付けられている。一方、結晶SiTFTは高い電界効果移動度、信頼性を持ち、また、CMOSを用いた周辺回路を同一基板上に実現できるなど、多くのメリットを有している。このような高い性能を有するsiトランジスタを150度以下の低温でフレキシブル基板上の必要な位置に局所的に形成する新技術を確立することができれば、集積回路とセンサなどの異種デバイスを一括搭載するシステム集積化技術の新たな可能性を見出すことができ、フレキシブルエレクトロニクス技術の飛躍的な進歩が期待できる。しかしながら、耐熱温度の低いフレキシブル基板上で高温が必要な結晶Siを製膜する為には、これまでにない新しい技術・手法を確立する必要がある。 そこで申請者は、独自開発した中空構造Si膜と転写先フレキシブル基板とを水を介して対向密着させ、水を蒸発させる過程で発生する強いメニスカスカを利用することで、転写先フレキシブル基板上の必要な位置に局所的にSi膜を"転写"形成する技術を提案し、フレキシブル基板上に耐熱温度以下で結晶Si膜の形成が可能であることを実証した。さらに、本転写技術を応用し、フレキシブル基板上で単結晶シリコン(c-Si) MOSFETを作製する技術を確立し、電界効果移動度609cm^2/Vsの高性能c-Si MOSFETの作製に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
9.で述べた通り、申請者はフレキシブル基板上に耐熱温度以下でSi膜を形成する世界に類を見ない画期的な転写技術を提案し、これまで困難とされてきたフレキシブル基板上での高性能Siトランジスタ作製技術の確立を成し遂げた。これは、当初2年間を予定した研究計画を1年という短期間で達成したことを示している。本研究成果は、4件の学術論文誌に掲載されており、内1件は米国の学術論文誌Applied Physics Lettersに掲載されている。また、第61回応用物理学会春季学術講演会においては学術的・社会的インパクトがあるとして注目講演(3526件中19件が選定)に選定されている。以上の観点から、当初の計画以上に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに得られた研究成果を基に、以下2点に注力して研究を遂行する。(1)フレキシブル基板上での相補型金属酸化膜半導体(CMOS)を用いた回路作製技術の確立を目指す。CMOS回路構成を実現する為には、フレキシブル基板の耐熱温度以下で層間絶縁膜を形成する技術確立が必要であり、これには、ポリシラザンを用いることで解決を試みる。ポリシラザンはアミン系触媒を少量添加することで、室温で高純度シリカ膜に転化することが知られており、非真空・室温下で高品質絶縁膜の形成が期待できる。(2)本転写技術を更に進化させることに注力する。産業応用を意識した場合、転写スループットの向上および歩留まり改善は大きな課題の1つである。スループット向上には、Roll-to-Roil技術への適応性を検証する。歩留まりは、対向密着時の印加圧力を最適化することで、改善を試みる。上記、(1)および(2)を並行して実施することで、本転写技術の産業応用への展開を加速させ、社会還元を果たす。
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