研究概要 |
本年度はVOS語順が基本語順とされるカクチケル語において語順と産出処理の順序が対応するか(主語(動作主), 目的語(被動者)のどちらから文を組み立てるか)を明らかにするため以下2つの実験を実施した。 ①視線計測実験 この実験では, 簡単な事象が描かれている絵(e.g., 女の子が男の子を押した)をカクチケル語話者が描写する際の視線を計測した. 例えばSVO言語の英語では, 実験参加者は英語の語順と対応する形で主語(e.g., 女の子), 目的語(e.g., 男の子)の順に視線を推移させる傾向が観察されており(Griffin & Bock, 2000), 視線と産出処理の順序との間の相関が想定されている. しかし本実験の結果, カクチケル語話者がVOS語順で産出する場合では, 主語, 目的語の順に視線を推移させる傾向が観察され, 語順との対応が見られなかった. ②ジェスチャーによる産出実験 この実験では実験参加者に簡単な事象が描かれている絵(e.g., 女の子が男の子を押した)を提示し, ジェスチャーによる事象の描写を求めた. この実験は言語が非言語行動とも相関するか否かを検討し, 言語以前にどのような順序で描写する傾向があるかを明らかにすることを目的としている. 実験の結果, カクチケル語話者は殆どの場合において動作主が被動者に先行するようジェスチャーによって事象を描写する傾向が観察された. これらの結果はともに, カクチケル語VOS語順において主語(動作主)が目的語(被動者)に先行して処理されることを示しており, 語順と処理の順序が対応していないと言える, そのため, これらの結果はこれまで普遍的であると想定されてきた文産出モデルにおいて言語個別的な特徴が存在することを示すという理論的な意義を有していると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では, 1年目はカクチケル語におけるジェスチャー実験と視線計測実験のパイロットを行う予定であったが、視線計測の本実験および、追実験まで実施済である. また、カクチケル語話者はスペイン語とのバイリンガルが多いため, 対照群となるスペイン語母語話者のデータも得ることができた. 一方, VOS語順での産出がSVO語順を上回る地城の特定には至っていないという点を鑑み, 自己評価を②とした.
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