研究課題/領域番号 |
13J02190
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石井 圭 広島大学, 大学院医歯薬保健学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | セントラルコマンド / コリン作動性血管拡張 / βアドレナリン受容体 / 活動筋血流量 / 非活動筋血流量 / 近赤外線分光法 / 片脚サイクリング運動 |
研究概要 |
運動開始時には活動筋において迅速な血管拡張が生じる。この血管拡張に高位中枢からの見込み的なシグナル(セントラルコマンド)が関与することを既に報告したが、その機序は不明であった。そこで、近赤外線分光法を用いて、片脚サイクリング運動時(1分間、最大運動強度の20-35%)の両側外側広筋における局所組織血流量を評価した。さらに、活動筋および対側非活動筋血流応答へのムスカリン受容体阻害薬(アトロピン)およびβアドレナリン受容体阻害薬(プロプラノロール)の影響を調べた。結果は以下の通りである。 1. 片脚サイクリング運動開始時、活動筋および非活動筋にて局所組織血流量は増加した。 2. 運動開始時の筋血流量増加は静脈内プロプラノロール投与では変わらず、アトロピン投与により消失した。 3. どちらの筋においても、ムスカリン受容体を介した成分は運動初期から増加した。一方、βアドレナリン受容体を介した成分は運動開始後45秒程度から増加した。 4. 片脚サイクリング運動のイメージは両側性に筋血流量を増加させ、その増加はプロプラノロールでは変わらずアトロピンにより消失した。 以上の結果から、以下の2つの結論が導かれた。(1)セントラルコマンドはコリン作動性血管拡張を両側性に引き起こし、運動初期および運動イメージ中の筋血流量の増加に寄与する。(2)βアドレナリン作動性血管拡張メカニズムは、運動後半から働き筋血流量の増加に貢献する。歩行のような日常生活動作は両脚で行われるため、随意運動開始時にセントラルコマンドはコリン作動性交感神経を介して両側性に血管拡張を引き起こすことで骨格筋へ見込み的な酸素供給を行っていると考えられる。運動が継続されると筋交感神経活動が増加するため、交感神経性の血管収縮と拮抗するように、βアドレナリン性血管拡張メカニズムが運動後半から作動すると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的は、(1)セントラルコマンドによる骨格筋血流量調節メカニズムの解明と、(2)セントラルコマンドの神経経路の解明の2つである。当初の計画では本年度に(2)についての動物実験を行う予定であったが、(1)についてのヒト実験を行なった。上述した運動時筋血流応答に対するムスカリン受容体遮断薬の影響について得られた成果を、国内および海外学会にて発表しただけでなく、論文としてまとめPhysiological Reportsという国際雑誌に掲載された。現在は、筋血流応答に与えるβ遮断薬の効果に関する英語論文を執筆しており近日中に投稿予定である。さらに、(2)についての予備実験を行っており現在データ分析中である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は『セントラルコマンドの神経経路の解明』に関する研究を行う予定である。セントラルコマンドの詳細な発生機序や神経経路は現在明らかとなっていない。先行研究より(Nakamoto et al. J Appl Physiol, 2011 ; Matsukawa et al. J Physiot Sci, 2011 ; Matsukawa ExpPhysiol, 2012)セントラルコマンドの発生に関与する脳領域の一つとして中脳腹側被蓋野(VTA)が報告されているが、VTAから末梢効果器までのシグナル伝達に関与する神経核および神経経路は不明である。そこで、除脳・麻酔下ラソトのVTAを化学的に刺激した後に、脳切片を作成し、神経興奮マーカーであるc-Fosの発現を確認する。これによりVTAの活性化と関連した脳領域の特定ができると考えた。既に予備実験を終えデータ分析を行っている。この結果を基に実験計画を適宜修正し、本実験を実施する。
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