研究概要 |
本研究では, 第一にX線異常散乱測定手法の一つである, DAFS (Diffraction anomalous fine structure)法の測定及び解析手法の開発を行った. DAFS法はXRD (X-ray dithaction)とXAFS (X-ray absorption fine structure)を組み合わせた回折分光手法であり, 観測する回折線を選ぶことで, XAFS法の特徴にさらに原子のサイト選択・空間選択性が付与された局所構造解析手法である. このようなDAFSの特徴は, 蓄電池電極材料のような, 複相・多元系が一般的な実用材料の解析に極めて有効である. 本年度はこの手法を蓄電池材料に適用するための, 実験手法の開発及び解析手法の開発を行った. 実験面では, 多結晶試料, 入射光エネルギー変更に伴う光軸位置の変化が微小な光学系, さらに多次元検出器を用いることで質の高いDAFSスペクトルを短時間で測定する手法を開発した. また解析面では, これまでのフィッティングを用いた解析手法で問題となっていた解析の任意性を除するために, 対数関数のKramers-Kronigの関係であるLogarithmic dispersion relationを用いて直接解を求める新たな解析手法を提案し, 測定・解析手法の両面で新手法の妥当性の検証を行った. 第二に上記のDAFs法をリチウムイオン電池の典型的な正極材料の一つであるLi_<1-x>Ni_<1+x>0_2 (LNO)に適用し, 充放電初期における顕著な劣化のメカニズムを調査した. LNOは次世代型の高容量電極であるLi過剰系正極材料の母材となる材料である. この材料では, Niが本来のNiサイトに加え, 10%程度のLiサイトを占めるカチオンミキシングが起こることが知られている. そこで本研究では開発したDAFS法を用いて, 充放電に伴うNiイオンの価数変化挙動や配位環境変化を異なる結晶学的サイトを区別して解析を行うことで, これらの系で問題となっているカチオンミキシング量の増加に伴う充放電初期の劣化メカニズムを調査した.
|