本年度は、印米原子力協力協定の交渉過程(2008年締結)に関する追加調査、印米原子力協力協定がもたらした影響、ならびにエネルギー政策をめぐるインド国内の政治過程に関する研究を進めた。 第1に、申請者の博士論文のテーマであった印米原子力協力協定をめぐる二国間関係について、従来から引き続いての追加的な調査として、インド・ニューデリーと、同ムンバイにおいて元政府関係者等への聞き取り等を実施した。2016年3月のムンバイでの調査では、2005年7月の両国間の交渉におけるキーパーソンと目されている当時のインド原子力委員会委員長に面会し、交渉において果たした役割に関して既存の研究では明かされていないエピソードを聞き出すことに成功した。 第2に、印米原子力協力に向けた交渉に関する上記研究を発展させて、当該原子力協力がもたらした影響を、二国間関係とグローバルな核不拡散レジームの観点の両側面から分析した。両国間の原子力協力それ自体は実現していないが、米国の尽力によってインドが他国から原子力燃料を輸入することを可能にしたことにより、インドの原子力燃料不足を解消していたことを示した。世界的な影響に関しては、核不拡散レジームの原則を損ねた要素を指摘したが、その具体的な悪影響の出現は見られないと分析した。 第3に、前年度からの新たなテーマとして、インドのエネルギー政策をめぐる政治についての調査を行った。インド国内政治や経済などの専門家とも協力して調査を行い、自身ではデリー首都圏における状況を担当した。デリー首都圏では2002年ごろに配電会社の民営化などの改革が行われ、その後は配送電ロスや停電の激減といった成果を挙げたが、近年は配電会社の累積赤字が問題化している。その背景に、首都圏政府、独立した規制委員会、民営化された配電会社の3者の間の協調の欠如という構造上の問題があることを明らかにした。
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