研究実績の概要 |
半島マレーシアの常緑熱帯広葉樹林では、強光に伴う葉温および飽差の上昇により、多くの林冠木において個葉光合成速度が日中低下することが知られている(Takanashi et al. 2006)。またその際、一枚の葉の中に分布する気孔が‘不均一(非同調的)’に閉鎖することにより、葉からの過剰な蒸散を防いでいる一方で、均一(同調的)な気孔閉鎖時よりも単位葉面積当たりの光合成速度が低下することが分かってきた(Kamakura et al. 2011, 2015)。しかし、比較的湿潤な条件では日中の光合成低下量が小さいことから、林冠木では常に不均一な気孔閉鎖が起こっているのではなく、周囲の環境条件に応じて気孔開閉特性を柔軟に変化させているのではないかと予測した。そこで、2003年から2015年までに自然条件下で実測した、パソ森林保護区の主要な林冠木であるNeobalanocarpus heimiiまたはDipterocarpus sublamellatusの個葉ガス交換データを用いて、均一または不均一な気孔閉鎖時の光合成予測値と比較することにより、不均一な気孔閉鎖が起こる頻度およびその時の環境要因について調べた。また2011年から2015年にかけては、個葉ガス交換測定と同時に二次元クロロフィル蛍光画像測定を併せて行い、葉内の光合成電子伝達速度の分布から、不均一な気孔閉鎖がどのような時空間スケールで生じているのかも明らかにした。個葉ガス交換および光合成電子伝達速度の分布結果から、飽差の高い条件では、不均一な気孔閉鎖を伴った急激な光合成日中低下が起こっていたが、飽差の低い条件では、均一な気孔閉鎖とともに緩やかな日中低下が起こっていた。従って、不均一な気孔開閉特性は、増大した水ストレスに対する林冠木の一時的な応答であると考えられる。 同様の観測は、明瞭な雨季・乾季のあるタイ北部の落葉性チーク林や長期乾燥実験をおこなっているスイスのスコットパイン林においても行い、類似の結果が得られた。
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