本年度は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムの相転移ダイナミクス、多形形成プロセスに与える添加物の電荷や、親水性などの影響について検討を行った。生体中に含まれる様々なイオンや化合物は、遊離状態で存在しているだけでなく、化合物中に官能基などの形で含まれている。このように、同じイオンや官能基でも水和性などの違いが生体鉱物形成過程に引き起こす影響について、詳細な観察を行った。 炭酸カルシウム系においては、添加物のリン酸の電荷が多形形成に与える影響について調べた。生体環境下においては、遊離リン酸は主に一価のイオンとして存在しており、これはバテライトの形成を抑制する。ここでは、二価のリン酸源としてビタミンB2のリン酸誘導体のフラビンモノヌクレオチド(FMN)を用いて、二価のリン酸が炭酸カルシウム形成に与える影響について検討を行った。二価のリン酸イオン存在下では、バテライトが安定化し、カルサイトの形成が強力に抑制された。これは、一価のリン酸イオンとは真逆の影響であった。二価のリン酸が多く存在する高pH下においても同様の結果が得られた。 リン酸カルシウム系では、カルボキシル基の水和性がリン酸カルシウム形成に与える影響について検討した。疎水性カルボキシル基を金のナノコロイドに結合させることで、水中に多量に分散させた。疎水性カルボキシル基は、リン酸カルシウム形成時にリン酸第八カルシウム(OCP)という、水酸アパタイト(HAP)の前駆体に固有に存在する構造(HPO4-OH層構造)を抑制した。一方、水和性カルボキシル基として酢酸を添加したところ、逆にHPO4-OH層構造が発達した。 このように、同じイオンでも価数や、水和性の違いにより、生体鉱物形成に与える影響は真逆になるということを突き止めた。
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