研究課題
本申請研究の目的は、人間が自然に実行する論理を理論的・実証的に明らかにすることである。主に図的推論を手段として、人間に自然な推論様式の解明を試みる。本年は第一に、認知モデリングにおける実装と形式化について研究を実施した。計算認知モデリングは、計算プログラムによる認知理論の実装であり、認知理論における心的表象やプロセスを具体化することができる。しかし、そのような実装は認知理論における仕様を含むものではない。実際、Johnson-Lairdらによるメンタルモデル理論のモデリング実装においても、その仕様はこれまで適切な形では与えられていなかった。さらに重要なことに、この実装には「メンタルモデル」の定義は暗黙的に行なわれており、明示的な仕様になっているわけではない。これは、実装によるモデリング以前から, メンタルモデル理論の曖昧さとして従来指摘され続けてきた問題であった。こうしたモデル実装と認知理論のギャップを埋めるために、形式仕様記述に親和的な強い静的型付き言語を用いた認知理論(メンタルモデル理論の三段論法推論)の実装を提案した。研究成果は、2013年 Artificial Intelligence and Cognition 国際会議に査読付き国際会議論文としてまとめ、また2014年人工知能学会全国大会において発表予定である。第二に、図的推論において人間がどのような図形操作を行っているかを解明することを目指した。特に、これまであまり研究がなされてこなかった推論の重要な側面のひとつ、与えられた前提から妥当な結論が何も導かれないということを判断する、いわゆるNVC課題に注目した。実験では、量化文から成る三段論法推論課題を解くための推論者のオイラー図の動かし方を観察した。本研究では、NVC課題における複雑な認知プロセスを明示化するために、PC画面上での図形の画像移動軌跡を記録する方法を新たに提案した。研究成果は、2014年Diagrams国際会議に査読付き国際会議論文として出版予定である。
2: おおむね順調に進展している
新たな環境で研究や実験を実施し、査読付き国際会議論文の形で研究成果をまとめることができた。
第一の研究については、認知理論の形式化として研究をスタートさせたが、計算認知モデリングの研究文脈の中でそれがどのような意義を持ちうるのかを考えていきたい。第二の研究については、図形の持つ大きさなどの偶然的性質に着目して研究を進めていく計画である。これは、哲学の文脈で知られてきた図形の一般性・特殊性の問題とも関連し、実験哲学的な興味深い知見を得ることが期待される。また、さらにアブダクションなどのいわゆる拡張的推論へも研究を進めたい。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件)
Journal of Visual Languages and Computing
巻: 25 ページ: 156-169
10.1016/j.jvlc.2013.08.OO7
Diagrammatic Representation and Inference ; Proceedings of 8th International Conference on the Theory and Application of Diagrams, Lecture Notes in Artificial_Intelligence, Springer-Verlag
巻: (印刷中)
Proceedings of 1st International Workshop on Artificial intelligence and Cognition, CEUR Workshop Proceedings
巻: 1100 ページ: 140-145