研究概要 |
本研究の目的は, 中枢神経系において, 細胞外電極―神経線維間の距離や, 神経線維の直径に選択的な刺激法を開発することである. これまでに末梢神経系では刺激の時間波形を制御することで選択的刺激が可能であることが示唆されていたが, 中枢神経系に適用されてこなかった. もし中枢神経系においても選択的な刺激が可能であるならば, 脳深部刺激療法や, 術中の皮質・皮質下マッピングなど臨床医学で利用されている電気刺激法の安全性向上に寄与するものと期待できる. 本研究においてはシミュレーションと動物実験からアプローチを試みたので報告する. 1. シミュレーション―中枢神経系における標的刺激可能な波形の考案― ヒト大脳皮質を模擬した容積導体にヒト中枢神経の数理モデルを配置し, 細胞外電極から電気刺激を与えたときの応答をシミュレーションした. 刺激波形は双極の陰極刺激(陽極→陰極の順で極性が変化する, 陽極の振幅は陰極の振幅よりも小さく, パルス幅が長い), 2つの指数関数を組み合わせた波形とし, それぞれの電極―神経線維間距離選択性を評価した. その結果, 陰極刺激では電極近傍での神経の興奮が抑圧できず, 選択的刺激ができなかった. これに対し2っの指数関数を組み合わせた波形の場合には, 電極から少し離れたところにある神経線維を選択的に刺激できた. このことから, 電極近傍の神経線維を興奮させることなく選択的刺激を行うには, 陽極側の刺激を緩やかに上昇させることが重要であると示唆された. 2. 実験―マウス脳組織標本を用いた神経活動イメージングによる検証実験― 標的刺激を実験的に検証するため, マウスの脳組織標本を電気刺激しその際の神経活動を可視化することを試みている. 刺激の極性, 振幅などといった刺激パラメータの変更に伴って, 応答する箇所が変化するかどうか神経活動イメージングにより検証している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレーションに関しては, 中枢におけるモデルを構築し, 考案した波形が従来波形よりも選択性に優れていることを明らかにできた. 実験についても, 神経活動イメージングを行うための実験系のセットアップを行い, 検証実験を随時行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 選択的刺激の検証実験に注力する予定である. これまでのところ, 選択的刺激の効果が認められるような実験データは得られていない. この問題には, 構築したモデルを改良し, より選択的な刺激性能の高い刺激波形を考案することで対応していきたい.
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