研究概要 |
コフィリンが飽和結合したアクチン繊維(以下、アクチン・コフィリン繊維)の極低温透過電子顕微鏡像の単粒子解析により、現在までに8.9Å分解能の3次元密度マップを得た。また、その密度マップを用いて分子動力学計算による原子モデル構築を行った。今回の構造で新たにわかった注目すべき点としで、アクチンサブユニットのD-loop部分が、αヘリックス構造をとる可能性が強く示唆された事が挙げられる。これまでの研究では、アクチン単量体・繊維状態の両方において、D-loopはループ構造をとるとされている。またアクチン繊維においては、D-loopを介したサブユニット間相互作用が、繊維構造の維持に必要だとわかっている。私が今回、アクチンのD-loop領域がループ構造をとっている構造(PDBID 2ZWH, Oda et al., 2009)と、D-loop領域の一部がαヘリックス構造をとっている構造(PDBID 1J6Z, Otterbein et al., 2001)を初期構造としてモデル構築したところ、D-loop領域がαヘリックス構造をとる方が、密度マップを良く説明する事がわかった。また、D-loop領域は、繊維軸方向のアクチンサブユニット間結合に寄与しなくなる事もわかった。このことから、コフィリンの結合によって、アクチン繊維の繊維軸方向のアクチンサブユニット同士をつなぐD-loopを介した結合が破壊され、D-loopはループ構造からαヘリックス構造へと構造相転移する事が強く示唆された。コフィリンの作用機構において、D-loopがαヘリックス構造をとる事に重要な意義がある可能性がある。また、少なくともコフィリンが結合した場合にはD-loopはαヘリックス構造をとりそうだとわかった事は、アクチン研究における進展である。
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