研究課題/領域番号 |
13J02337
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
景山 洋平 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 現象学 / 技術論 / 人間学 / 存在論 |
研究実績の概要 |
第二年次にあたる平成26年度は、研究実施計画に照らして、下記の研究実績を達成した。 第一に、現象学的人間学的アプローチによる技術論について、特に科学技術の運用に携わる人間存在の社会的次元の存在論的研究を推進した。その結果、高階の科学的な思考態度の発生的根拠としてこれを拘束する相互共同的なコミュニケーションの「線引き」の問題とコミュニケーションの「媒体」の問題の重要性が明らかになった。「線引き」の問題については、招待発表“Difficulties of Authenticity in the Light of Heidegger's Philosophy of Technology”で、統計情報が足りないリスクの確率的な「線引き」に関する専門的判断の対立、また、専門家と一般市民の「線引き」の尺度をめぐる社会的対立、さらに、ステークホルダーとなりうるコミュニティの「線引き」をめぐる価値観の対立について、現象学的人間学的観点から統合的に検討する可能性を示した。「媒体」の問題については、発表「『立て組』と『技術との自由な関係』:― ハイデガー技術論と社会理論をつなぐもの ―」で、20世紀のドイツ社会思想を超えてハイデガー技術論が現代に有する意義として、システムと生活世界の対概念を克服して、これを統合的に把握する可能性を提示し、コミュニケーションの構造分析を今後の核心的課題として明らかにした。 第二に、以上の研究と並行して、コミュニケーションの媒体に関する現象学的人間学的な探究の必要性が浮上したため、まずハイデガーの「出来事」の哲学の体系構造における言語の位置価を解明し、発表"Objektivitaet als Medium der Erfahrung bei Heidegger mit Bezugnahme auf die gegenwaertige Sprachphilosophie“としてその成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一年次ではまだ十分に相互的な連関を見とおす事のできなかった哲学的技術論の問題群(リスク論・創造性論・物象化論など)について、現象学的人間学の観点から総合的に把握する可能性を確立して、そのパラダイムを公表することができたのは研究上の大きな進捗であった。また、科学社会学の研究者との共同作業を開始して、哲学の外部領域との交流を推進できていることも研究上の重要な前進である。 反省点としては、科学技術の生活世界的基盤を構成するコミュニティを分析する上で必要な「歴史的共同性の現象学的分析」について十分な進歩を達成できなかったことである。その理由としては、技術論に関する現象学的人間学的研究を推進するなかで、哲学的により原理的な問題としてコミュニケーションの構造分析が浮上してきたため、まずそれにとりかからざるをえなかった事を挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究成果をまとめなおす作業に着手するとともに、不十分にとどまった歴史的共同性の研究を第二年次に構築された研究パラダイムに則して推進することに尽力したい。その際、西洋の歴史的共同体の哲学的解釈について、従来はドイツースペインという対立軸を設定して、20世紀以降の近代化の進度に則した形而上学的なアイデンティティの多様性を解明することを目ざしていたが、今後は、その課題とともに、明らかに西洋的共同体の一部分であるのに「異邦の民族」と見なされて、ヘーゲルやハイデガーが行ったような歴史哲学的な解釈を与えられてきたユダヤ人の存在も考慮した仕方で、技術時代の最下の根底にある歴史的共同性と民族の問題を検討してゆきたい。
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