研究概要 |
マイクロRNA機能抑制技術であるマイクロRNAスポンジに着目し、中枢神経系に豊富に発現しているマイクロRNA let-7の生体遺伝子導入法により機能抑制することで、中枢神経系におけるlet-7の機能とそのメカニズムを明らかにすることを目的とした。 中枢神経系モデルである網膜を用いてlet-7に対するマイクロRNAスポンジを導入しlet-7機能抑制実験を行った。その結果、ある種のアマクリン細胞の発生異常を見出した。他の網膜細胞におけるlet-7の機能解析を進めるため中枢神経系に高い導入効率を示すアデノ随伴ウイルス(AAV)による導入法に着目した。MVはキャプシドの違いから主に12種類の血清型が知られており、それぞれ標的細胞種が異なることが知られている。そこで、中枢神経系において感染することが知られていたMV1,2, 5,8, 9,10の7種類の血清型について、ユビキタスプロモーター下でmCherryを発現するAAVを作製し、網膜における感染パターン及び感染効率を定量的に調べた。その結果、AAV5は錐体視細胞にAAV10は水平細胞及び神経節細胞へ非常に効率よく導入できることが明らかとなった。生体エレクトロポレーション法ではこれらの細胞種への遺伝子導入が困難であることから、AAVを用いることでこれらの細胞種について遺伝子機能解析を行えることが考えられた。網膜におけるAAVによる遺伝子導入法が有効性を示すため、網膜変性モデルマウスであるCrx欠損マウスへCrxを発現するAAV5 (AAV5-Crx)を導入するレスキュー実験を行った。Crx欠損マウスで見られていた視細胞の変性、形態異常及び網膜機能異常がAAV5-Crxの導入により有意に回復することが明らかとなった。この結果は視細胞の発生異常を伴う比較的重篤な網膜変性症の遺伝子治療の実現可能性について重要な知見となるものである。
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