研究実績の概要 |
私たちは、網膜におけるlet-7の機能抑制によって、アマクリン細胞が形態異常を示すことを見出していた。しかし、アマクリン細胞におけるlet-7の機能を解析する上で、アマクリン細胞の発生や分化に関する知見が乏しいことが研究の障壁となっていた。そこで、アマクリン細胞の発生や分化に関わる転写因子の探索を行った。先行研究において確立した視細胞が運命転換しアマクリン細胞が増加する表現型を示すOtx2視細胞特異的欠損マウスを用いたマイクロアレイ解析(Omori et al., PLOS ONE, 2011)から、アマクリン細胞に高く発現すると思われる遺伝子群を抽出した。その結果、転写制御因子Prdm13がアマクリン細胞に高く発現していることを見出した。Prdm13抗体を作製し網膜における発現解析から、Prdm13は発生期及び成体網膜においてアマクリン細胞サブタイプ特異的に発現していることがわかった。Prdm13欠損マウスを作製及び解析したところ、Prdm13欠損マウス網膜においては、一部のGABA及びグリシン作動性のアマクリン細胞が減少していることが分かった。生体遺伝子導入法により、Prdm13を過剰発現させると、GABA及びグリシン作動性アマクリン細胞を優勢に誘導した。以上より、Prdm13は特定のアマクリン細胞サブタイプの分化に必要であることが明らかとなった。Prdm13欠損マウスにおいて、視覚機能テストを行った結果、Prdm13陽性細胞が視覚感度の調節に重要な役割を持っていることが示唆された。本研究から、アマクリン細胞の分化、神経回路形成及び視覚機能への寄与について新たな知見が得ることができた。Prdm13がアマクリン細胞の神経回路形成に関わることが明らかとなったため、Prdm13とlet-7の機能抑制により形態異常が見られたアマクリン細胞との関わりについて研究を進めていきたい。
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