研究課題/領域番号 |
13J02350
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
後藤 穣 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 磁気渦 / 非断熱トルク / 磁気反渦 |
研究概要 |
磁気渦とは強磁性円盤の面内座標の角度φとその位置にある磁化の角度φ_mの関係がφ_m=φ+(定数)となる磁化構造であり、渦の回り方(カイラリティ)と渦中心における面直成分の磁化の向き(ポーラリティ)という二つの自由度を有する。磁気渦は渦中心に急峻な磁化勾配を有しており、伝導電子が磁化に及ぼすトルクの大きさβに大きな影響を与えることが報告されている。βを詳細に調べるためには電気的検出手法などの簡便な実験手法が必要である。本研究では強磁性円盤中に磁気渦構造を形成し、その両端に高周波電流を印加した。その際生じた直流電圧を印加電流の周波数に対して測定し、共鳴スペクトルを検出する。外部から強い磁場を印加して渦構造を破壊した後に零磁揚へ掃引すると異なるカイラリティやポーラリティを持つ磁気渦を再形成できる。複数回の測定により異なるカイラリティを持つ磁気渦の共鳴スペクトルを磁場掃引測定して、それらのスペクトルの差分をとることで電極から生じる磁場の影響を解析的に除去する。得られたスペクトルの対称ローレンツスペクトルと反対称ローレンツスペクトルの強度比をフィッティングによって求めるとβ項が得られ、本実験結果ではβ=0.22±0.05と見積もられた。得られた結果は別の磁化構造で検出された従来報告よりも一桁大きく、これは磁気渦中心の持つ微細な磁化構造に起因していると推察される。現在、本内容にて論文を投稿中である。 一方、この解析手法を利用すると一部乱れたスペクトルが得られ、β値のバラつきを誘引する。従って、磁気円盤を利用した検出はより詳細にβ項を調べるには適していない。これは磁気渦に直接電極が接触しているために共鳴スペクトルに擾乱を与えることが原因と考えられる。現在では、渦構造と電極を非接触とした実験系を形成できる磁気反渦構造に着目している。磁気反渦とはφとφ_mの関係がφ_m=φ+(定数)となる磁化構造である。磁気反渦は交差細線構造中に適切な着磁過程を施すことで形成可能である。現在、交差細線構造中における磁気反渦構造の磁気力顕微鏡観察に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
円盤におけるβ項の評価に関する実験は概ね達成することはできた。しかし9で述べたとおり、より詳細にβ項を理解するには磁気反渦構造がより適している。昨年度では交差細線構造を作成し、磁気反渦構造の形成に成功した。申請当初に想定していた実験は終えたが、最終的な目的は未達であるため、このような評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
円盤におけるβ項の評価に関する実験は概ね達成することができた。その結果、円盤中の磁気渦構造では電極が渦構造に接触しているためスペクトルが乱されることがわかった。そのため、磁気円盤におけるスペクトルの評価方法では精度よくβを調べることは難しい。現在では反渦構造と電極を非接触な試料形状で作成できることに着目し、磁気反渦の共鳴を利用したβ項の検出を試みている。昨年度では交差細線構造を作成し、磁気反渦構造を形成することに成功した。今後は磁気反渦の形成条件をまとめて、共鳴スペクトルの検出を通じた磁気反渦の動的特性の理解を試みる。
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