研究実績の概要 |
近年、強磁性体中の伝導電子と磁化の相互作用の理解が重要視されている。特に磁気(反)渦という構造の中心は伝導電子と強く相互作用すると報告されている。(反)渦と伝導電子の相互作用を調べるためには、試料に電流を印加した時の磁気(反)渦の運動を調べる必要がある。しかし、円盤中に形成される磁気渦では磁気渦と電極が接触しているため、電極から生じる電流磁場や電流密度分布の乱れが生じる。本研究では交差細線に形成される磁気反渦に着目した。この構造では電極を反渦から離れた位置に配置できるため上記の効果を排除できる。そこで、磁気反渦を交差細線中に形成させる必要がある。 そこで、電気抵抗測定と磁気力顕微鏡観察の手法より交差細線の磁化構造形成過程を調べた。その結果、交差細線には四種類の一様磁区構造(左向き、上向き、下向き、右向き)と反渦構造という安定な磁化状態が存在し、それらが確率的に遷移しあうことが分かった。磁化構造が確率的に決まる原因は、磁化の熱擾乱によって形成される磁化構造が揺らぐためと考えられる。更に、一様磁化構造から反渦構造へ変化した際、抵抗値が増加することが分かった。これは異方性磁気抵抗効果によって磁区構造変化を反映した抵抗増加が生じたと考えられる。この抵抗変化から反渦形成を判別できるため、実験効率が向上する。以上の結果を日本物理学会、日本磁気学会、Annual Magnetism and Magnetic Materials Conferenceにて発表した。また、Japanese Journal of Applied Physics誌に投稿、受理された(M. Goto et. al., Jpn. J. Appl. Phys, 54, 023001, (2015))。今後は、形成された反渦のダイナミクスを詳細に調べることで、伝導電子と磁化の相互作用をより正確に評価できると期待される。
|