研究課題
これまで申請者は超音波検査(エコー)を用いて、嚥下内視鏡検査(VE)および嚥下造影検査(VF)と同時に嚥下時の動画撮影を行った結果、気管内を通過する誤嚥像が、気管壁に沿って移動する線状の高輝度所見として観察されることを示した。さらに、誤嚥物質と気管壁の形状と動きの特徴に基づいた画像処理を行うことで、誤嚥検出の感度、特異度はそれぞれ91%、94%と高い値を示した。そこで今年度は、食事摂取時のエコーにおいて検出された誤嚥は、誤嚥性肺炎の発症を予測できることを示すことを目的とした症例集積研究を実施した。特別養護老人ホームに入所中の嚥下障害の疑いのある同意の得られた者、かつ超音波検査開始後2週間以上経過観察が可能であった者を分析対象とし、2~4週間に1回食事摂取時に頸部正中線上にリニアプローブを接触させ誤嚥の有無を確認した。誤嚥性肺炎を発症した場合はその時点で観察終了とした。これまでの研究に基づき、超音波画像における誤嚥物質は「声帯を超えた気管内に流入する線状の高輝度所見」と定義した。また、1回の食事あたりの(誤嚥物質が観察された検査の回数)/(全検査の回数)を誤嚥の頻度と定義した。最長で347日間の観察期間中、エコーによる食事摂取の中断や減少といった有害事象を生じた者はいなかった。誤嚥性肺炎発症者は1回の検査あたりの誤嚥の頻度が高い傾向にあった。エコー開始後2週間以上経過観察が可能であった8名の対象者のうち、1回以上誤嚥が検出された者は5名であり、その後の経過において摂食嚥下ケアの変更が無かった2名は誤嚥性肺炎を発症していたが、姿勢の変更、トロミの濃度の変更、食事のペースの変更があった3名は誤嚥性肺炎を発症しなかった。これらの摂食嚥下ケアの変更は全て対象施設内でのVE実施後に生じていた。また、誤嚥性肺炎発症者は誤嚥の頻度が多い傾向を示した。
2: おおむね順調に進展している
今年度実施した症例集積研究により、食事摂取時における定期的なエコーが安全に実施可能であること、食事摂取時の誤嚥の検出が可能であることが示された。さらに、摂食嚥下ケアがVEを実施後に変更されていた者は、誤嚥性肺炎を発症していなかったことから、エコーにおいても同様に検査後の摂食嚥下ケアの変更の手順を示すことで、誤嚥性肺炎を予防できる可能性が示された。また、エコーで捉えた誤嚥の頻度は誤嚥性肺炎発症のリスク指標として有用である可能性が示された。従って、次年度に予定している介入研究の実施にあたり有用な示唆が得られたため、おおむね順調に進展していると判断した。
まず、研究対象施設において実現可能な、エコー実施後の摂食嚥下ケアの変更の手順を統一化するプロトコルを立案する。その上で、エコーを用いた誤嚥のスクリーニング導入群、非導入群を比較する介入研究においてスクリーニング導入群における有意な誤嚥の頻度と肺炎発生率の低減を示す。
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