昨年度までの症例集積研究において、食事時間中のエコー検査は対象者の食事摂取を妨げず実施可能であることが示された。また、エコーによる誤嚥および咽頭残留検出後に摂食嚥下ケアが変更された対象者は誤嚥および咽頭残留の頻度が減った結果肺炎を発症せず、嚥下ケアが変更されなかった対象者は肺炎を発症していたことが明らかとなった。そこで、今年度はエコー検査導入による肺炎予防効果を検証することを目的として、ランダム化比較対照試験を実施した。 高齢者施設において経口摂取実施中の全入居者75名に募集を行い、同意の得られた54名についてランダム割り付けを行った(介入群28名、対照群26名)。8週間の間2週間に1回、エコー検査による誤嚥の検出結果をもとに嚥下ケアを実施した介入群では、初回エコー検査時に検出が確認された2名の誤嚥および咽頭残留の頻度が8週間後に減少していた。このとき介入群に対してはエコー検査上誤嚥が認められた場合は食事形態の変更、嚥下内視鏡を用いた詳細な検査の実施を指示した。咽頭残留が認められた場合は固形物と液体を交互に嚥下する交互嚥下を指示した。エコー検査の実施と検査に基づく嚥下ケアを実施しなかった対照群では初回エコー検査時に検出が確認された3名の誤嚥および咽頭残留の頻度が減少していたが、頻度の変化量は介入群と比べ低かった(介入群:中央値で31%の減少、対照群:中央値で11%の減少)。 つまり、食事時間中の2週間に1回のエコー検査の実施は、従来の摂食嚥下ケアと比較し、誤嚥性肺炎予防効果をもたらす可能性を今回のランダム化比較対照試験において初めて示した。介入群で誤嚥および咽頭残留の頻度の減少が生じた対象は、エコー実施後に入所依頼初めて個別の嚥下ケアが行われていた結果からも、食事中に誤嚥や咽頭残留を非侵襲かつリアルタイムに可視化できるエコー検査は肺炎予防に有用であると言える。
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