性的二型、即ち雌雄間での表現型の違いは、生物界において広く見られる現象である。しかし、性的二型の進化を考える上で、個体の成長ステージ間のコンフリクトという観点はこれまで見過ごされがちだった。即ち、成体において有利な形質が、性成熟前の個体においても有利であるとは限らない。そこで本研究では、個体の成長を通じて二次性徴形質の発生を追い、最適な個体発生曲線の進化に関わる遺伝的基盤を明らかにすることを目的として、野生メダカをモデルとして研究を行った。まず、性的二型形質(鰭の長さ)に違いのある2集団の野生メダカを交配させてF2を作出し、F2個体の成長を記録した。また、親として用いた野生個体からDNAを抽出して全ゲノムシーケンスを行い、その配列情報からSNPマーカーの作出を行った。そのSNPを用いてF2の成長ステージごとにQTL解析を行い、性的二型形質に寄与するQTLの経時的変化を明らかにした。同時に、個体ごとの発生曲線を直交多項式(Legendre polynomial)を用いて定量化し、QTL解析を行った。その結果、メダカの性的二型形質の発生曲線に関わるQTLは(1)性染色体上にはなく、常染色体上の複数の遺伝子が関わっている。更に、(2)検出されるQTLは発生ステージごとに異なるだけでなく、(3)雌雄間でも異なっているということが明らかになった。このような雌雄および発生ステージ間での遺伝子発現に差異をもたらすメカニズムとしては、性ホルモン依存的な分子経路が関わっている可能性が考えられる。実際に、今回検出できたQTLの近傍領域には、アンドロゲンレセプターや性ホルモン合成系に関わる遺伝子がいくつか見つかった。
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