研究課題/領域番号 |
13J02386
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
亀野 誠 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | Spintronics / Si / Hanle効果 / スピン輸送 / Spin-MOSFET |
研究概要 |
本研究は、研究代表者らがこれまで開発、評価を行ってきた『室温における高ドープn型Siへのスピン注入とスピン信号の検出』の知見を基に、Si中の純スピン流の輸送物性について統一的な理解を目指す、という大目標を設定した。 現在電気的スピン注入法において、スピン注入回路と検出回路が一部重なる非局所3端子法を用いて、強磁性体とSiチャネル界面のスピン蓄積と外部磁場によるスピン歳差運動によるスピンコヒーレンスの見積りがいくつか報告されているが、この手法ではスピン輸送は実現できないこと、さらに出力信号においては理論限界を数桁上回る信号が観測されていることから本当にSiにスピン蓄積できているのか(界面のキャリアトラップ由来の信号ではないのか)という問題に確固たる解答を与えられないのが現状である。スピン流物性の従来様々な研究機関から統一的ではない結果しか報告されていなかった状況を打開する為、我々は室温でスピン輸送が実証できている試料を用いてスピンコヒーレンスの定量的評価を第一の目標とした。当研究グループにより、非局所3端子法を用いた場合にはスピンのドリフト効果に起因してスピン輸送長が変調されるという結果が得られた。本年度はこのスピンドリフト速度の定量的に評価し、それを利用することによるスピン信号強度の変調に成功した。 さらにSpin-MOSFET構造を用いた非縮退半導体SiにおけるHanle効果を測定しスピン信号を観測することに成功した。この成果は理論的提案のみであったSpin-MOSFETの創製に向けた非常に大きな一歩である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリコン中を伝播するスピンの特にスピンドリフト現象に着目して、縮退領域にあるn型シリコンにおけるスピンドリフト効果の観測とモデル計算を用いたスピンドリフト速度の定量化に成功したことが一つ目の大きな成果であり、Applied Physics Letters誌に論文が掲載された。第二の成果は、上記の研究成果を基盤的な知見・技術として、非縮退n型シリコン中に室温で輸送されるスピンのスピンドリフト現象の観測と、上記モデルを発展させた形でのHanle型スピン歳差信号の精密な理論的再現である。特にHanle型スピン歳差信号は非縮退シリコンでは縮退シリコンにおけるそれと比べて特異な振る舞いをすることが知られていたが、その起源が不明であった。本研究によりこの問題を解決できたことは大変重要な成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本提案の大目標のもう1つでもあるシリコン中の純スピン流由来の熱電効果の真の物性に迫る研究を行っていく。
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