研究課題/領域番号 |
13J02386
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
亀野 誠 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 半導体シリコン / スピン注入 / スピン輸送 / スピンカロリトロニクス |
研究実績の概要 |
ムーアの法則を超える新機能素子創出の要請からスピントロニクスという分野が注目を浴びており、これは電子の電荷とスピン自由度を同時に制御する学問分野である。中でもスピン輸送チャネルに半導体シリコン(Si)を用いるスピントロニクスは、Siが比較的軽元素であり結晶の空間反転対称性から良好なスピンコヒーレンスをもつことに加え、現状のエレクトロニクスで利用されている産業基盤をシリコンスピンデバイス実用化の暁にそのまま活用できることからコスト面でのメリットも期待できるといった利点が多い。シリコンスピントロニクスが盛んに研究されている一方、本質的に異なる物理現象であるスピン輸送とスピン蓄積が混沌とした状態のまま議論されており、サイエンスとしては未成熟な領域である。これはSiスピントロニクスの有する豊かな物性と、産業応用可能性の大きさから考えて不幸な状態である。昨年度ではこれまでに達成されていなかった非縮退Siを用いた電気的スピン注入とスピン流生成、さらに輸送現象について詳細に明らかにし学会にて発表を行った。加えて、論文(雑誌名:Physical Review Applied)として発表を行った。昨年度の後半は半導体Siを用いた熱流とスピン流の相関について研究を精力的に行っており、これは排熱を有効利用できる点でエナジハーベスティング技術への応用が期待される。実際にジュール熱由来のスピン信号の検出にも成功し、今年3月に応用物理学会にて発表を行った。現在定量的な評価を行い、この研究成果について論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度はSiスピンMOSFETの室温動作の達成(世界初)に関する論文をPhys. Rev. Applied誌に共同筆頭著者として掲載したこと、Siスピン素子における熱誘起純スピン流の室温における観測に成功したことの2点が特筆すべき成果である。前者はSiスピントロニクスにおける大きなマイルストーンと達成であり、プレス発表を行ったところ日経を始めとする多くのメディアで取り上げられた。後者はスピンカロリトロニクスという新学術領域において半導体スピン素子における熱励起純スピン流の生成と観測に初めて成功した実験であり現在著名学術誌への論文投稿を準備している。この2つの成果はそれぞれ半導体スピントロニクスにおける極めて重要な成果であるが、いずれも研究者がその研究計画において達成をコミットしていた研究目標であり、それをコミットメント通りに達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
熱とスピンの相互作用を研究するスピンカロリトロにクスが衆目を集めるなかで半導体Siを用いたスピンデバイスにおいても応用できるのではないかと考えた。現在その研究をSiスピンデバイスを用いて行う中で室温での信号の取り出しに成功したが、定量的な解析は未達成であり明らかにすべき今後の課題であるとかんがえる。信号が得られた試料は縮退半導体を用いているが、spin-MOSFETと熱デバイスの融合を達成するにあたって詳細に評価すべきものはやはり非縮退半導体チャネル中のスピン信号検出である。現在のままではゲート特性が縮退チャネルでは得られず、MOSFET動作が期待できない。今後は非縮退半導体を用いて電気的スピン注入に加え、熱的スピン注入やゲート電圧によってスピン信号がどのように変調され定量的に評価できるのかを詳細に議論したい。
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