研究概要 |
高分子溶液や液状食品などの加工プロセスにおいては, これらの物質の流れを予測して制御する必要がある. 水や空気などの通常の流体, すなわちニュートン流体の流れは, 質量保存則, 運動量保存則, およびニュートンの粘性則の三つの式を連立させて解くことで予測される. しかし冒頭に挙げた流体は, これらのうちニュートンの粘性則が成り立たない. そこで現状では, ニュートンの粘性則の代わりに, 流体の性質を表すモデルが導入されている. 例えば, べき乗則などの非ニュートン粘性モデルや, Maxwellモデル等の粘弾性モデルがこれに当たる. モデルを選択する際には, 流体の種類のみならず, 定常か非定常か, せん断支配か伸張支配かなど, 流れの性質も考慮する必要がある. 上記の背景より, 本研究はモデルに依存せずに粘弾性を評価する方法を構築する. 粘弾性とは, 粘性と弾性が共存する性質である. 粘性はひずみ速度に対応して応力が決まる性質, 弾性はひずみに対応して応力が決まる性質をさす. したがって, 流れ場中のひずみ速度, ひずみ, 応力を実験により取得し, この三つの量の間の関係がわかれば, 試験流体の粘弾性を評価できると考えられる. この条件を満たす流れとして, 内外径比の小さな三重円筒間流れを採用した. 本年度は, この流れを粒子画像流速測定法(PIV)と超音波流速分布系(UVP)で計測するシステムを構築し, 複数の種類の流体の流れを計測した. その結果, 粘弾性流体を用いた実験では, 応力がひずみ速度に依存する領域と, ひずみに依存する領域が観察された. これは, モデルを導入することなく, 流体がもつ粘弾性を客観的に示すことができたことを意味する. 今後は, この粘弾性評価法の制度検証や, UVPを利用した適用可能な流体の範囲拡大が必要であると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデルに依存せずに粘弾性を評価するという目的に対し, 計測精度等に疑問はあるものの, 想定どおりの計測結果が得られた. 加えて「流体の速度場計測を利用した非ニュートン流動の解明」という共通性から, スイス連邦工科大学との共同研究を実施している. 本年度は, 透過性円盤を粘弾性流体中で曳航する実験を行った. その結果, 粘弾性に起因すると見られる周期流れが計測され, 今後の進展が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
二重円筒間流れを利用した粘弾性評価について, 計測精度の検証を行う. また, 現状ではPIVを用いた計測結果の解析が先行しているため, UVPの計測結果についても解析を進める. UVPを用いて粘弾性評価が可能になると, 不透明な流体に対しても適用できるようになり, より汎用性の高い評価法が完成する. 研究計画では本評価法の完成後, せん断と伸長が混在する流れとして振動する球周りの流れ場を扱うとしていた. しかし, 本年度実施した実験の結果, 管内流の方が適切であると判断した. 加えて, 管内流を利用した粘弾性計測は, 食品加工等の分野で需要が高いことから, 計画を変更し管内流を扱う予定である.
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