研究概要 |
高木の樹高成長は, 樹冠上部の水ストレスが主要因となり制限されると考えられてきたが, 樹高世界一のセコイアメスギでは針葉が受ける水ストレスが高さによらず一定であることが示された(Azuma, et al. inreview)。この「樹冠内水分恒常性仮説」がセコイアメスギに特異的であるのか, 様々な種に共通する機構であるのかを検証すること, いまだ未解明な点の多い高齢・巨木の生理機能を明らかにするとを目的とし, 当該年度は秋田県の250年生スギ林, 長野県・高知県・滋賀県の100~300年生ヒノキ林, 山梨県の250年生アカマツ林において, 調査地の設定および対象木を選定した。また, 樹高50mの秋田スギにロープをかけて登り, 樹冠内のさまざまな高さの枝葉を採取し水分特性・形態特性・解剖特性を測定した。樹冠内恒常性仮説で予測された通り, 高木・高齢の秋田スギにおいて, 高さにともなう葉の生理・形態的順化反応として通水から貯水への機能変化がみられた。樹冠上部ほど葉の貯水機能が高くなり, 葉内の貯水や通水に寄与すると考えられるTransfusion tissueの断面積割合が増大していた。一方, 薪たな研究展開として, 大阪大学理学部との共同研究に取り組み, 顕微分光法を用いて葉の内部の水の状態を可視化することに成功した。3調査地の高齢ヒノキにおいては, 葉が枝に密着した特異な鱗状葉に着目して形態特性を測定した。最大樹高に達した高齢ヒノキでは, 鱗状葉スケールで高さ及び光環境にともなう形態的可塑性がみられ, 樹冠上部の鱗状葉は相似的に小型化するが, 伸長成長が遅いことが示唆された。水ストレスなどの生理的成長制限, もしくは光・水・風などの環境条件の変動に対する適応であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
調査地を設定した高齢ヒノキ, アカマツについても樹冠内の異なる高さの葉の形態・水分生理・組織構造特性について明らかにする。スギについては秋田スギの日本海側だけでなく, 太平洋側や気象条件の異なる地城において種内比較することを検討している。Transfusion tissueの生理学的機能をさらに明らかにするために, 機能解剖学的研究を進める。
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