研究課題/領域番号 |
13J02402
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
立石 洋子 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ロシア / ソ連 / 歴史認識 |
研究概要 |
本年度はスターリン死後のソ連における自国史像をめぐる論争の分析を研究課題とした。特に、歴史家の論争の舞台となった学術誌『歴史の諸問題』誌編集部の活動に着目し、同誌を中心として歴史家の議論が活発化するなかで、どのようなテーマが論争の対象になったのか、またそれに対して共産党指導部がどのような対応を示したのかという問題を分析した。その際、19世紀の北カフカースで起こった対ロシア蜂起であるシャミーリの反乱の評価をめぐる論争に特に着目した。 分析の結果、スターリンの死後に、19世紀の北カフカースで起こったシャミーリの反乱を再評価しようとする動きが歴史家の間に広まったこと、その再評価を『歴史の諸問題』誌が促進しようとしたことが明らかになった。さらに、1956年のポーランド、ハンガリーでの動乱の後、ソ連共産党の指導部が国内の知識人の自由化を警戒し始めると『歴史の諸問題』誌も批判の対象となり、編集部の交代を余儀なくされたこと、しかしシャミーリの反乱の再評価はその後も否定されず、スターリン期の公的歴史像に回帰することはなかったことを示した。 以上の分析結果から、1)スターリンの死後には共産党史やロシア革命の評価だけではなく、自国史像も論争の対象となったこと、2)シャミーリの反乱の再評価は歴史家のイニシアティヴにより始まったこと、3)ポーランド、ハンガリーでの動乱が、スターリン批判後に始まるソ連の自国史像の再評価をすべて止めたわけではなく、シャミーリの反乱の再評価はその後も歴史家の議論の対象となり続けたこと、4)連邦内の自治領を単位としてそれぞれの地域が公的自国史像を持つべきだというソ連初期の理念が、スターリンの死後にも受け継がれたことが明らかとなった。以上の点はいずれも従来の研究にはない重要な観点であり、今後も研究を継続する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題の一つであるフルシチョフ期のソ連における自国史像について、シャミーリの反乱の再評価というテーマを手がかりとして、従来の研究が提示してこなかった歴史学と政治の一側面を明らかにしたと考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
シャミーリの反乱の再評価をめぐる論争だけでなく、ロシア革命の評価やメンシェヴィキの評価など、スターリンの死後に歴史家の論争の対象となった他のテーマを分析対象に加え、ポスト・スターリン期のソ連における自国史像の変遷の分析を継続する。今年度調査を行ったモスクワ市中央社会政治史文書館、ロシア科学アカデミー文書館、ロシア国立現代史文書館のほかに、サンクトペテルブルクの政治社会史文書館や国立文書館、ロシア国民図書館付属の文書館での調査を新たに開始する。
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