研究課題/領域番号 |
13J02402
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
立石 洋子 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ソ連 / 歴史認識 / ロシア / 歴史教育 |
研究実績の概要 |
本年度は1950-60年代のソ連の政治改革と自国史像をめぐる論争について研究を続けるとともに、現代ロシアにおけるソ連時代の記憶についても調査を行った。 まず前者についてはスターリン死後のソ連で自国史像の見直しが進むなかで、学術雑誌『歴史の諸問題』誌編集部が担った役割を検討した。具体的には、モスクワのロシア科学アカデミー文書館が所蔵する歴史家の個人文書、国立現代史文書館が所蔵するソ連共産党中央委員会学術部の文書、モスクワ市中央社会政治史文書館が所蔵する共産党の雑誌編集部の党委員会の文書を分析した。またサンクトペテルブルクでは、政治社会史文書館でソ連科学アカデミー歴史研究所レニングラード支部の党委員会の文書を閲覧した。 第二の課題については、現代ロシアにおけるソ連時代の記憶という問題を、特に第二次世界大戦の評価を中心に分析した。従来の研究には、他国の歴史政策がロシアに与えた影響を視野に入れていない、あるいは90年代の政治改革とそこでの歴史教育政策をめぐる政治的・社会的論争が現代ロシアの歴史認識に与える影響を分析していないという問題があった。 そこでこれらの問題点を克服するための第一歩として、90年代から現代までの歴史教育政策と教科書をめぐる政策の変遷を分析するとともに、2013/14年度の教育科学省の推薦を受けた9冊の自国史教科書の第二次世界大戦の描写を検証した。これに加えて、ロシアを代表する市民団体の代表や教科書の執筆者にインタビュー調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では1年目と2年目にソ連初期の自国史像の形成について、ならびにポスト・スターリン期の歴史学について分析し、3年目に現代ロシアの歴史認識とソ連時代の自国史像の関わりについて研究する予定であったが、予定を変更して2年目にポスト・スターリン期の歴史学および現代ロシアの歴史認識についての分析を並行して行った。この二つの研究の成果は論文や学会報告として発表済しており、ソ連形成期については3年目に分析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題の一つは、ソ連形成期の自国史像の形成過程の分析である。なかでもベラルーシ共和国史の構築とその変化に着目し、1)ベラルーシ共和国史の構築や共和国の科学アカデミーなど主要研究機関の設置における歴史家ピチェータの役割、2)ソ連におけるスラヴ学の展開とそこでのベラルーシ史研究の位置づけ、3)冷戦初期のスラヴ学とソ連の対外政策の結びつきについて分析を行いたいと考えている。 これらの分析を通じて、連邦当局が各共和国の固有の歴史像と連邦全体の歴史像の関係をどのように捉えていたのか、社会主義の理念と歴史的伝統をいかに調和させようとしたのか、戦後のソ連の外交政策の中で歴史研究がどのような役割を担ったのか、またピチェータをはじめとする共和国の歴史家や連邦中央の歴史家が同様の問題についてどのように考えていたのかを分析する。 これによりソ連の自国史の形成過程を、学術政策を監督する党指導部の政策決定過程と知識人の議論の両面から検証し、それが実際の学術政策や歴史教育政策、対外政策にいかに反映されたのか、また共和国の知識人の民族意識の発展にいかなる影響を与えたのかを解明することを課題とする。 第二に、三年間の研究の成果をまとめ、ソ連初期からスターリン死後の政治改革期におけるソ連の自国史像の発展の過程を時系列に検証するとともに、それが現代ロシアの歴史認識に与える影響を明らかにすることを課題とする。
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