わが国では、長年、花粉症が問題となっている。戦後の社会的要請を背景として、スギ・ヒノキという単一樹種が大量かつ一斉に植林され、花粉を大量発生する林齢に一斉に達し、花粉症の主な原因となっていることから、本研究は、これを人工林花粉問題と呼んでいる。 本年度は、花粉症関係者の意向調査の結果の分析に集中的に取り組み、学会発表、論文投稿を通じてその成果を公表した。主な結果は下記の通りである。京都市都市部148名の分析結果では、花粉症のある人より、花粉症のない人の方が、森の中を散歩するのが好きである傾向が見られた。花粉症を和らげるために社会が重視すべき取組について、花粉を出す植物を減らす取組や広く行われているテレビ等による花粉飛散量の予報は、年齢層が上がるにつれて重視されていた。ありのままの自然が好きな人より、人手の加わった自然が好きな人の方が、花粉を減らすための森林管理に賛同的であった。この結果は、花粉症に対する意識と森林観に関係があることを示すという点で重要である。京都市山間部210名の分析結果では、花粉が舞わないように建物に空気清浄機を設置したりアスファルト面を緑化したりするといったハード面での花粉症対策は、女性より男性に重視される傾向があった。 以上の研究成果を、日本森林学会、応用森林学会および米国で行われた国際集会IUFRO WORLD CONGRESSにおいて発表し、英文誌に投稿した。上記の発表、投稿を通じて、花粉症に対する意識は森林観の影響を受けていることを明らかにし、花粉症の有無に加えて、年齢、性別といった属性による意識の差異の検討が重要であることが分かった。
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