研究課題/領域番号 |
13J02421
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
深田 麻里亜 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 美術史 / ルネサンス / キリスト教 / イタリア / ローマ |
研究概要 |
当該年度は研究テーマに関連する文献や画像の収集、確認にあたるとともに、15~16世紀のローマ美術に関して幅広く考察した。 ラファエッロ作品の中でも、システィーナ礼拝堂用タペストリー連作「聖ペテロ伝・聖パウロ伝」連作について考察した。教皇の主要礼拝堂であるシスティーナ礼拝堂において、唯一エフェメラルな装飾として企図されたタペストリー連作は、教皇庁および教皇位の正統性と布教における主導的地位を標榜する、既存のキリスト教装飾プログラムと調和・連携するものであることを確認した。そして、主題である聖ペテロと聖パウロが、サン・ピエトロ・イン・ヴァティカーノ旧聖堂のような、ローマ教会黎明時の装飾で重要視されていたのとまさに同様に、ローマの教会の権威と、布教活動の意義を強調することを考察した。また、15世紀前半にローマのサンタ・マリア・マッジョーレ聖堂のために制作された祭壇画に関する考察も行った。この論文は2014年度中に発表される予定である。対象としたのは、教皇マルティヌス5世がマザッチョとマゾリーノに委嘱した祭壇画であり、作品における図像選択や構図が、ローマの伝統的装飾、聖堂創建の伝説、聖人にまつわる逸話等と密接に関係する点を検討した。さらに、祭壇画に描かれた皇帝の肖像に見出せる当時の政治状況との結びつきは、管見では、16世紀にラファエッロと工房が装飾するヴァティカン宮殿「火災の間」、「コンスタンティヌスの間」における、教皇庁と外国との盟約関係を対外的に表明する態度に通じる要素と捉えることが可能である。 こうした研究を通じて、当該年度はラファエッロ芸術が都市ローマに連綿と流れる初期キリスト教時代・中世の伝統に加え、中世後期から初期ルネサンス期の装飾に見られる一種のコードを継承しているとの考察に達し、これまで以上に広範な歴史的・美術史観点からの作品理解が促されたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究題目であるラファエッロ芸術に関する考察を、概ね実施計画に従い遂行することができた。さらに、研究計画と関連する重要なテーマである、中世後期のローマ聖堂装飾を比較対象として、15世紀前半に制作された作品を対象とした研究を実施できた。また、研究遂行にあたっては、国内外の図書館や研究施設を必要に応じて適宜利用することができたため、今後も同様に研究を継続することが可能である。そのため、本研究計画はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も原則的に研究計画に沿った研究を遂行する予定である。ローマをはじめとする欧州での現地調査によって資料確認・収集に努め、学術的成果を得ることを試みる。2013年度中の調査においては、比較対象を必ずしも初期キリスト教時代の作品に限らず、中世から初期ルネサンス時代までの広範な時代の作品を扱うことで、ローマのキリスト教美術に関するより広い視野を得ることができた。今後の計画においても、広い視点を考慮しつつ、最終的には詳細な比較が可能となるような調査を実施することを目指す。また、研究成果を学術誌への投稿論文としてまとめることも積極的に検討していきたい。
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