研究課題/領域番号 |
13J02441
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
守田 峻海 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 単分子磁石 / 磁化緩和 / フタロシアニン / 磁気双極子相互作用 / 交換バイアス / 磁気ヒステリシス |
研究概要 |
本研究では、熱活性型スピン反転のエネルギー障壁が非常に大きいテルビウム-フタロシアニン系単分子磁石に注目し、磁性を担っているTb(III)イオンの空間的配置を変化と磁気的挙動の相関を解明することを目的としている。本年度は、フタロシアニンの配位子場を維持しながら分子内のTb(III)イオンの空間的配置を変化させるために、二つのフタロシアニンがベンゼン環を共有しているFused-Pc配位子を用いた。 Fused-Pc配位子は配位サイトを二つ持っている点で従来のオクタブトキシ置換フタロシアニン(obPc)配位子とは大きく異なり、それぞれの配位サイトに更に金属が配位することが可能である。この配位子を用いることで、anti型のTb(III)4核quintuple-decker型錯体とTb(III)2核triple-decker型錯体を合成することに成功した。Tb(III)4核quintuple-decker型錯体においては、分子内の磁気双極子相互作用について、triple-decker型Tb_2 (obPc)_3錯体に由来する強いものと、Fused-Pcを介した弱いものが存在した。4つのTb(III)イオンは強磁性的に相互作用しており、交流磁化率からはTb_2 (obPc)_3錯体が弱い相互作用で結合したダイマーであることを明らかにした。また、Tb(III)2核triple-decker型錯体はビラジカルを有しており、直流磁化率からは反強磁性的相互作用の存在が示唆された。磁化の磁場依存測定(M-Hplot)では、1.8Kにおいて明確なヒステリシスが観測された。このヒステリシスループはゼロ磁場下でも閉じていないことから、二つのTb(III)イオンがラジカルを介して相互作用をし、基底状態の磁化量子トンネリングが抑制されているものと思われる。最終的に、18Kにおいてもヒステリシスは消失しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fused-Pcを用いた場合でも、反応経路を適切に設計することで、これまでに合成されてきたobPc配位子による積層型錯体とは異なるタイプの錯体を合成できるということを示した。磁気挙動を大きく変化させるところまでは至らなかったが、今後の化合物設計における指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終生成物を得るまでには合成のステップが多く、収率の向上が課題である。今後、様々な中心金属数・様々な形の錯体を合成していく予定であるが、その方法としては、①今回用いたFused-Pcのように複数のフタロシアニンを共有結合させる方法、②フタロシアニン環の外側に配位サイトを導入し、Metal-Organic Framework (MOF)の合成方法を応用する、③フタロシアニン環の外側にカップリング反応を行えるような置換基を導入し、二量化・三量化させる方法などが考えられる。また、合成される多核錯体のコンフォーメーションは多数存在する。その中から、目的のものだけを選択的に合成するような反応経路を設計していく必要がある。
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