研究課題/領域番号 |
13J02441
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
守田 峻海 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 単分子磁石 / フタロシアニン / 常磁性種の核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
本研究では、単分子磁石の中でも、熱活性型のスピン反転に関する障壁が極めて大きい、テルビウム(III)-フタロシアニン積層型錯体に注目している。この化合物群の単分子磁石特性は、金属イオンの空間的配置、即ち、磁気双極子-双極子相互作用や、化合物の電子状態(アニオン・中性ラジカル・カチオン)に強く依存することがこれまでに明らかになっている。これまでに合成した化合物の一つである、テルビウム(III)-Fused Phthalocyanine トリプルデッカー型錯体に関して、電子状態はビラジカルで、磁化の磁場依存測定からは、単分子磁石の中でも比較的高い温度で磁気ヒステリシスを示すことが明らかになっていた。しかしながら、磁化率の温度依存性の解釈については、ビラジカル同士のカップリングや、f電子とラジカルの相互作用に関して不明瞭な点があった。この点については、分子軌道計算より、室温付近でもラジカル同士が相互作用し、χMTの値を理論値よりも減少させていることが明らかとなった。また、分子の磁気異方性を明らかにするために、溶液中においてプロトンとカーボン13のNMR測定も行った。本化合物では、分子内に常磁性のテルビウムイオンとπラジカルが存在しているため、非常に大きな常磁性シフトが観測された。本化合物における常磁性シフトは、テルビウムイオンの不対電子と核スピンとの磁気双極子相互作用による擬コンタクトシフトの寄与が非常に大きい。即ち、テルビウムイオンと核スピンの位置関係により、常磁性シフトの大きさが変化する。よって、化合物の溶液中での構造と常磁性シフトの大きさから、磁化率の異方性を抽出することができる。本錯体においては、既報のテルビウム(III)-オクタブトキシフタロシアニントリプルデッカー型錯体よりも大きな磁化率異方性を持っており、NMRから抽出された磁気異方性の値と、単分子磁石特性に相関があることが示唆される結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単分子磁石のNMR測定に関しては、現在のところほとんど報告がなされていない。これは、常磁性シフトによりスペクトルの帰属が困難になる、又は、本質的に解釈可能なスペクトルを得ることが困難になることが原因と思われる。本研究においては、測定条件や測定法を広く検討し、解釈可能なNMRスペクトルを得ることに成功した。今回の化合物については、単分子磁石の性質に由来する非常に強い磁気異方性により、それぞれのシグナルは良く分離されるため、シグナルの数より溶液中の分子の対称性を容易に判別することが可能である。また、NMRの化学シフトから、単分子磁石特性を議論するために磁気特性に関する情報を抽出することができた。よって、本研究においては、単分子磁石の物性を明らかにする上でNMR測定が有用なツールであることを示すことができたと言える。本課題で合成されたその他の化合物や既報の化合物でも測定を行い、単分子磁石のNMR測定に関して更なる知見を得たい。
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今後の研究の推進方策 |
単一分子の電子状態・スピンの制御を利用した分子デバイスの作成という観点からは、薄膜化や基板蒸着といったプロセスは必須である。それらのプロセスに耐えうる分子の合成を行っていく。フタロシアニンダブルデッカー型錯体のSTM/STS測定はこれまでに研究が行われている。本研究では基板上でのSTM/STS測定における挙動の変化を期待して、フタロシアニン類縁体を用いた積層型錯体を合成していく予定である。 また、分子内に存在するパイラジカルはテルビウムイオンと磁気的に相互作用する。この相互作用の存在は、単分子磁石特性の向上に非常に重要であることは多数報告例がある。フタロシアニン積層型錯体においては、既報のダブルデッカー型錯体と、本研究で合成したfused phthalocyanineトリプルデッカー型錯体のみがパイラジカルを持つ。そこで、フタロシアニン配位子自体にπラジカルを持たせるような分子設計を行い、単分子磁石特性を向上させること試みる予定である。
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