研究課題/領域番号 |
13J02442
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
橋口 優 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳性麻痺児 / 歩行時筋活動 / NMF / Synergyパターン / リズム聴覚刺激 |
研究実績の概要 |
Synergyとは中枢神経が筋骨格系における多自由度を調整して四肢の複雑な運動をコントロールするために、個々の筋では無く複数の筋を同期させる活動を指す。近年、非負値行列因子分解(以下NNMF)という解析を用いて、計算論を基に歩行時のSynergyを定量化する報告が成されている。NNMFとは、複数の筋活動から主要なSynergyパターンを抽出し、対象者の筋活動の特徴を説明する方法である。昨年度に行った健常者を対象とした予備実験の結果、本研究においても先行研究と同様のSynergyパターンが認められていたことから、NNMFを用いた解析方法の妥当性が確認された。 今年度の研究では、この解析方法を用いて脳性麻痺児を対象にSynergyパターンの抽出を行い、健常児よりも少ない数のSynergyパターンを示すことが明らかとなった。また、本研究で見られたSynergyパターン数の減少は痙縮と呼ばれる脳損傷に起因する異常筋活動の程度および歩行指標である歩行時の足圧中心の移動量と関連していることが明らかとなっており、歩行獲得までの発達過程に生じた脳損傷により、適切なSynergyパターン数の獲得が阻害されており、Synergyパターン数の減少は歩行機能と関連する可能性が示唆された。 さらに、今年度はリズム聴覚刺激がNMFによって示されるSynergyパターンに与える影響について検討を行った。対象は、脳性麻痺児とし歩行中にリズム聴覚刺激を与え、それによってSynergyパターン数が増加するかどうかについて検討を行った。その結果、リズム聴覚刺激によってSynergyパターン数は増加しないことが明らかとなった。この結果から、Synergyパターンは即時的に変化するものではなく、長期的な変化として形成されていることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳性麻痺児の歩行時に見られる筋活動に対して非負値行列因子分解を用いた解析から脳性麻痺児の歩行におけるSynergy数が先行研究と同様に減少していることを確認することが出来、さらにそのSynergy数と運動機能が関連することを明らかとすることが出来た。しかし、そのSynergyの特徴やメカニズム、さらに機能的な意味については未だ明確となっていない。このことから、今後の研究では、これまでの研究成果を基に脳性麻痺児を対象として縦断的な検討を行うことが重要と考えられる。縦断的な検討の結果から、脳性麻痺児の病態像をSynergyパターンによって明示することが出来れば、小児理学療法分野に対して大きく影響する可能性があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究および先行研究によって、脳損傷に由来する疾患を有する患者におけるSynergyパターンの特徴が明らかとなってきた。さらに、Synergyパターンの機能的な意味を明確にするためには、回復過程におけるSynergyパターンの経時的な変化を明確にする必要がある。しかし、これまでにSynergyパターンの経時的な変化を検討した報告は見られていない。このことから、研究の展開としてSynergyパターンの変化が見られた脳性麻痺児におけるSynergyパターンの経時的な変化を、縦断的な検討から明らかにしていくこととして、すでに計測を開始している。また、発達による影響と脳損傷による影響とを考察していくために、対象を脳卒中後片麻痺者としてSynergyパターンの抽出を行い、健常者との比較および機能的な指標との関連を検討していくこととしている。さらに、脳卒中後片麻痺者でも同様に、回復過程におけるSynergyパターンの変化と運動機能の変化との関連を明らかにすることで、Synergyパターンの変化が持つ機能的な意味を明確にし、中枢神経障害を有する患者に対する新しいリハビリテーションの方法を探索する。
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